特殊災害対策対応庁
◆特殊災害対策対応庁――通称、退魔庁
大霊災発生直後、日本政府や行政の対応は、決して褒められるようなものではありませんでした。1つのことに対応しようとしても、複数の省庁の管轄に抵触してしまい、遅々として進まないという有様。縦割り行政の弊害が、ものの見事に足を引っ張ったのです。
未曾有の災害に対応するには、思い切った組織改編が必要。そういった世論に押される形で設立されたのが、『霊』に関することをすべてを統括する政府機関『特殊災害対策対応庁』でした。
『特殊災害』とはお役所言葉で、要するに『霊災』を意味します。無駄に長くて回りくどい名前の役所ですが、この名称で呼ぶのは内部の人間でも少数です。
『退魔庁』――多くの人々は、幽霊対応に奔走する特殊災害対策対応庁をそう呼んでいます。
◆特殊災害対策対応庁の役割
特殊災害対策対応庁(退魔庁)は、『霊』に関することすべてを管轄としています。そして、霊に関することであれば、他の省庁の管轄や権限に優先して、対応することが許されています。
とくに重要な退魔庁の役割と言えるのが、
現在、免許なしで
また退魔庁は、免許の発行にあたり、退魔庁による講習の受講を《祀徒》に義務づけています。駆け出しの《祀徒》は、幽霊や魂の性質や、《霊器》や《霊験》に関する知識、一時契約の結び方などを、この講習で学ぶことになります。
《祀徒》たちが所属している組織も、退魔庁の管轄下にあります。これは警察庁や宮内庁の下にある公安第霊課やAGAT、陰陽課であっても例外ではありません。ときには警察庁や宮内庁を通さず、退魔庁から直接各組織に通達が下されることもあります。
◆霊子力保安管理院
特殊災害対策対応庁の一機関に、霊子力保安管理院(略称・霊保院)があります。この霊保院では、定期的に官民双方の専門家を交えた会議が開かれています。
一機関の会議に過ぎない「霊保院会議」ですが、世に与える影響は決して小さいものではありません。なにしろ、「霊保院会議」では、一部復興予算の配分について話し合われるのですから。一部とはいえ、海外からの支援金も含めた復興予算は莫大なものです。霊子エネルギー研究所を始めとする各組織も、自組織への予算を獲得するためにしのぎを削っています。
また、「霊保院会議」では、自衛隊の「特殊災害派遣部隊」の出動先についても話し合われます。対霊装備を調えた「特殊災害派遣部隊」は、《祀徒》でも
金と力。その両方を霊保院会議は握っているわけです。
こうした大きな利権は、大きな腐敗を生みかねません。
各官庁でも選りすぐりの"優秀"なキャリア官僚が霊保院への転属希望を出し、さらには早期退職してから民間企業の顧問として入り込んだ者もいました。そんな彼らを『利権漁りのハゲワシ』と揶揄する声もあります。
そうした批判をかわすためかどうかは不明ですが、現在では霊保院会議は限られた委員だけの閉鎖的なものではなくなり、一般にも公開されるようになりました。また、「特殊災害(=霊災)の専門家」とも言うべき《祀徒》には、発言も許されています。
場合によっては、《祀徒》の一言が大きく会議の方向性を決める、ということになるかもしれません。