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初期情報08
 
 
 
ため息を鞄にいっぱい詰め込んで
【担当マスター】蟻川エルジェ
 
 
 
 目が覚めて、佐々木愛弘[ささき・ちかひろ]は長いため息をついた。
 何度も夢にみる、「ペリュトーン」以前の日々。
 夢のなかで、家族や友人が、愛弘に微笑みかける。
 けれど目が覚めれば、ひとり。
 
 どうすれば、夢をみないで眠ることができるのだろう。
 
 愛弘は自分の腕をかざしてみる。
 灰色の肌。かたい鱗。
 どうせなら、これが夢であってほしい。
 
◇     ◇     ◇
 
 内密の話があるのだと、二度崎高利[にどさき・たかとし]は約束もなしに愛弘の部屋を訪れた。
 愛弘の部屋に他人が来たのは初めてのことだった。不思議な気持ちで高利を招き入れる。
 高利は、龍宮の有名人だ。主に、変人として。とはいえ、下っ端の下っ端である愛弘とは違って、上層部で強い発言力を持っている。
 そういえば愛弘は、高利が発案した計画の実行部隊として動いたことが何度かあったなと思い出す。もちろん、雑用係のようなものでしかなく、言葉を交わす機会もなかったが。
 上司と言うにはあまりに遠い男から唐突に告げられたのは、要するに福岡への異動命令だった。
「ここ数ヶ月の間、博多での行方不明者が目立って増えている。きみに捜査を依頼したい。その際、きみが龍宮から派遣されているのだということは、知られないように注意してくれ」
 どうして自分が選ばれたのか、愛弘にはわかるような気がした。結局、愛弘は龍宮には居なくてもいい人間だからだ。愛弘がいなくなっても誰も困らない。たとえ愛弘が行方不明になったとしても、誰も文句を言わないだろう。
 愛弘の思考を読んだように、高利は笑みをみせた。
「いやいや、よく考えてみてくれ。つまりは大抜擢だということだ。今回それなりの結果を出してもらえれば、それなりに……ね?」
「それなりに、とは……?」
「信用もしてない者を、目の届かない場所へ調査に行かせたりしないよ。きみには期待しているということだ」
「俺は、熊本から出たことがないんですが……」
「うん。そのほうが、先入観がなくていいだろう?」
「土地勘もありませんが」
「足を踏み入れるのも嫌だというなら、強制はしないが」
「……特に感想はありません。行けと言われれば行きます」
 どうせ決定事項なのだろう。愛弘には拒否する熱意もない。おとなしく命令に従うだけだ。
 愛弘の諾を聞いて、高利は満足そうに頷いた。
「今回は特別に、車を準備しておいた。博多はさすがに遠いからな」
「ありがとうございます」
「5分で荷物をまとめられるか?」
「……ちょっと待ってください。まさか、今すぐに出発するんですか?」
「そういうことだ。善は急げと言うだろう?」
 高利はあっさりと肯定する。
 なるほど。これも決定事項なのだ。なら、逆らうだけ無駄だということか。
「……わかりました。すぐに準備します」
「よろしく頼む」
 高利に握手を求められ、おずおずとその手を握り返す。
「くれぐれも慎重にな。調査の手段は、きみたちに任せる」
「――きみたち?」
 愛弘は、眉をひそめる。
「彼女はもう、車の中で待っている」
 
◇     ◇     ◇
 
 アパートを出て指定された道を辿ると、そこには白い乗用車がとまっていた。
「……まさか」
 助手席を確認し、愛弘は思わず言葉をもらした。もしかしてこの少女が、一緒に博多へ向かう瀬良ナユミ[せら・−]だろうか。
 少女は14、5歳にしか見えない。
「どうもはじめましてー」
 こんな子どもを任命するなんて、龍宮はよっぽど人材不足なのだろうか。それとも、幼くして龍宮に登用されるほど、よっぽど彼女が優秀なのか。……なるべくなら後者であってほしい。
「まずはどうしますか?」
 ひとまわりも年下の少女に緊張しながら、愛弘は資料を確認しはじめる。
 高利に渡されたのは、熊本から福岡までの地図と、福岡市内の地図。そして行方不明者のリスト。
 地図をひらいてみると、博多駅を中心とした特定の範囲が、曖昧に囲まれている。だいたいこのあたりが行方不明者の発生地域、という意味だろう。
「大変なのはこちらですね。……ざっと30人くらいでしょうか」
 愛弘は行方不明者リストをぱらぱらとめくる。そこに記されている情報は、個人によってばらばらだった。詳細に状況が記されている者もいれば、なかには名前すらはっきしていない者もいる。そして、すべての報告が「真偽は不明」と締めくくられていた。
「まずは、この情報をあらうところから始めなきゃいけないんでしょうが……。これだけの数を調べてまわるのに、いったい何日かかることか……」
「大丈夫だって。あたしガイドブック持ってきたから」
 そう言ってナユミが見せたのは、「ペリュトーン」以前の情報誌。
 のんきなナユミの言動に、愛弘の不安は増していく。
「今、それが役に立つんでしょうか……。まあ、ないよりはましなのかもしれませんが……」
「だからさー。とりあえず博多に行ってみてから考えようよ。……小心者だよね、チカちゃんって」
「あの……その呼び方、やめてもらえませんか?」
「えー。やだ」
「瀬良さん……」
「ナユミでいいよー」
「……俺には、女性を下の名前で呼ぶ習慣はありません」
 ナユミとは、どうも年齢差以上の差を感じる。これ以上の会話は、無駄に思えた。
 あきらめて、愛弘はエンジンをかける。
「わかりました。ひとまず博多に行きましょう」
 失敗したって、愛弘には失うものはなにもない。
「心配しすぎじゃない? 無理だったら、『無理でしたー』って泣いて謝ればいいだけじゃん」
「そういうのは、あまり得意じゃありません」
「教えたげる。あたしはそういうのけっこう得意だから」
 その言葉に、愛弘はため息でこたえた。
 
◇     ◇     ◇
 
「……はあぁ」
 そしてここにも、ため息がひとつ。
 福岡市博多区の、廃墟と化した神社。その本殿の片隅で、ひとりの女性が膝を抱えていた。
 彼女は、ほんの3日前に博多へ到着したばかりだった。初日にこの場所を見つけてから、ずっとここで夜を明かしている。
 傍らには、古いガイドブック。ナユミが持っていたのと同様、「ペリュトーン」以前に発行されたものだ。
「どうしたらいいんでしょうか……」
 変わり果てた博多の街で、彼女は途方に暮れていた。
 
シナリオ傾向など
推奨対応人数 ★★
最大対応人数 ★★
シナリオ危険度 ★★★★
キーワード 『偽』『共有』『仲間はずれ』『真面目』『執着』『みんな仲良く』『特技がある人』『暴力はあっても戦闘はあんまりないかも』『違和感』『人間関係』『おしゃべり』

イラスト=桜瑞
 
 
 
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