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初期情報07
 
 
 
Land of the Voiceless
【担当マスター】高良鳩一
 
 
 
「同胞が殺された。私たちは反逆者と見なされている」
 波一つ立たない声音に、室内の空気がさざめいた。驚きはやがて、怒りにかき消される。男たちは仲間の死を嘆くより、敵の行為に憤った。
 そう。敵だ。
 白衣を着た金髪の青年は、名をサイラス・イーリイ[−・−]といった。大学の研究室の一室が彼の住居であり、仕事場だった。馴染みの椅子に沈み込み、物憂げな表情で同胞たちを見回す。
 少年、青年、老人。そこには、年齢も雰囲気もばらばらの人間しか居ない。唯一の共通点は、彼らが男性であるということだ。
「アイオーンやディーヴァの目は、いずれこの地にも向くだろう。強大な武力を持って攻め寄せる敵に対して、ヴァナヘイムが独立を貫くことは出来るのか? 我らは自衛のための力を持つべきだ。しかしバルドルは」
「バルドルは自分の地位に固執してやがる」
「静観してりゃ嵐が過ぎると思ってるんだ。本心じゃアイオーンを恐れてるに決まってる」
 ヴァナヘイムの頭領、バルドル[−]は仙台に本拠地を置き、自らもそこに座している。
 一口にヴァナヘイムと言えど、その勢力範囲は広い。アイオーンと隣接する福島・山形から、北はこの北海道まで。電話などの通信網が絶たれ、ほとんどの交通網も失われた今、900kmの距離は絶望的なまでに長大だ。
 各地域には自治が認められており、自治体のトップへ意見も通る。その締め付けの緩やかさから、現状ではバルドルのやり方を黙認している者も多い。
 アイオーンやディーヴァに対して静観を決め込む指導者の下で、ヴァナヘイムは現状平穏を保っている。しかし最近では「月津衆」と名乗る陣営内派閥が立ち上がり、バルドルの方針に不満を唱える声も聞こえ始めた。
 海を挟み、本州と距離を置いた北海道の地も、その時勢と無関係ではない。彼らは月津衆と同じくヴァナヘイムの未来を憂い、陣営を存続させるべく思いを志した。そして“玄月”を名乗る派閥を作り上げたのだ。
 彼らと対立していた穏健派は、すでに消えた。北海道のリーダーとして人々をまとめていた氷見要[ひみ・かなめ]が行方不明になると共に、“玄月”に吸収されている。この町は今や彼らの支配下にあるのだ。
「私たちが出来ることはただ一つ。氷見要と共に行方不明となった主劍を探しだし、その力をもってしてバルドルを頂点から引きずり下ろすこと。そうすることでしか、ヴァナヘイムに未来はない」
 戦に臨む兵士の雄叫びが響く。
「バルドルがよこした部隊が街へ入り込んでいる。奴らに我らの同胞は殺された。すでに戦いは始まっている。バルドルは我らを完全に消し去るつもりだ」
「許してたまるものか! 反撃するべきだ!」
「俺たちの声が、ヴァナヘイムの皆に届くまでは死ねない! 死んでたまるか!!」
「より多くの敵を屠った者には、戦うための更なる力を約束しよう。街に広がる霧は私たちの味方だ、恐れることはない。皆の心を一つにし、この苦境を乗り切ろう。未来は必ず開ける」
 室内を歓声が満たす。
 窓の外には、静まりかえった白い街が広がっていた。
 
 北海道旭川市は、ヴァナヘイムの北海道拠点として機能していた。
 広大な土地で生き残った人々は、何が起こったのかも判らず毎日を暮らしていた。本州から渡ってきたヴァナヘイムを名乗る者たちが生き残りの人々を集め、ようやくまっとうなコミュニティを仕上げたのだ。
 北海道の中心的存在となったのは、主劍を持つ氷見要だった。堅実な方策を取り、行政の知識も豊富な彼のおかげで、北海道は急速に復興を遂げていた。
 その旭川市全域が、真っ白な霧に包まれたのはつい最近のことである。
 それだけならばまだしも、市内に居た女性が次々に死亡したという噂があった。ディアティ・ロード問わず、生き残った女性はまったく居ないという。
「……そのうえ、氷見も主劍ごと行方不明。先に派遣された調査隊は音信不通で帰還者ゼロ。一体どこの人外魔境よ、ここは?」
 街の輪郭が見え始めた山中で、弥栄深月[やさか・みづき]は足を止めた。もうここから先は一歩も動かないというポーズを取って、少女は隣の青年を見上げる。
「人外魔境などあってたまるか。何かが起こっているなら人のせいだ」
「これで貴方たちまで帰ってこなかったら、本当に笑えないわ。戻ってこなくても探しに行かないからね。バルドルに報告して、速攻で帰るから」
「バルドル様だ。……本当はお前を連れていければ早いんだが、噂通り死なれては困るからな。ここから状況を見張っていてくれ」
「私は一度踏んだ土地しか『視え』ないからね。未知の危険に飛びこむのは貴方の役目よ。さっさといってらっしゃい」
 長い茶髪の少女に見送られ、立岩長治郎[たていわ・ちょうじろう]は仲間と共に街へ向かう。
 バルドルの勅命を受け、旭川市の異変を調査しに来た彼らは、この先にある運命をまだ何も知らなかった。
 
 鉄錆びた臭いが酷い。それが血臭だと気付くまでに、そう時間はかからなかった。
 ついさっき言葉を交わしたはずの仲間が、血の海に浸かって絶息している。見開いた目に何も映さず、半開きの口からは血がしたたり落ちるばかりだ。
 誰もが呆然と立ちすくんでいる。白い霧に包まれる街の中で、そこかしこに転がる死体と血の色だけが鮮やかだった。
「……お前たち。この街から逃げろ」
 かすれた声が、そんな彼らの耳を打つ。
「隊長!!」
 立岩の腕の中で、壮年の男が微かに身動いだ。真っ赤に染まった腹部を押さえ、僅かな呼気を行うだけの動作がひどく鈍い。
「まさか、ここまで一方的とは……恐らく先の調査隊も、すでに、殺されたに違いない。……お前らはどうにか、逃げ延びて、バルドル様に報告を……」
「隊長! もうしゃべらないでくれ、頼む……!」
「……生きて……戻れ」
 薄く目を開いたまま、男の動作の全てが止まる。
 命の終わった身体を抱いて、立岩はしばらく動けなかった。殺された仲間の死体。見覚えのない顔の死体。道路や壁のあちこちに飛び散った古い血痕。少しの先すら見通せない真っ白な霧と、町中に立ちこめる敵意と気配。
 ふと気付けば、上向けた手の平に刺青に似た黒い痣のようなものがあった。訳も分からず、それを握りしめる。
 情報を整理し、一つの結論を出す。
 上司の遺体をその場に横たえ、立岩は立ち上がった。
「敵は“玄月”と名乗った。月津衆の同調組織と聞き及ぶ。これはバルドル様に対する、明確な背信行為だ」
 座りこんでいた仲間たちが、ゆるゆると顔を上げる。
「このままここに留まっていては、奴らに殺られるのみ。今は耐えて……撤退するしかあるまい」
「そう簡単に撤退出来るならば、苦労はしまい」
「ギャアアッ!!!」
 悲鳴と共に、白い霧を血しぶきが赤く染めた。
「六花の一、早蕨海路[さわらび・かいじ]。ぬしらに恨みは無いが、後身のため、ここでその命終らせていただく」
 血に染まった巨大な劍を掲げ、筋骨たくましい老人がそこに居た。その背後の霧の中に、更なる人の気配が増えつつある。
 張り詰めた空気が、断ち切られようとしていた。
 
シナリオ傾向など
推奨対応人数 ★★
最大対応人数 ★★★
シナリオ危険度 ★★★★★
キーワード 『ストーリー重視』『バトル必須』『流血あり』『死亡あり』『微BL』『男性PCメイン』『18禁無し』『愛より恋よりバトルが好き』『戦場の友情』『対立と葛藤』『貴方が最後に選ぶものは何ですか』

イラスト=桜瑞
 
 
 
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