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初期情報03
 
 
 
千の光になって
【担当マスター】こしみずアカリ
 
 
 
 昨年末、名古屋近郊に新たな名所がうまれた。
 名所といっても、テーマパークでもなければ、食事やショッピングを楽しむ複合施設でもない。もっぱら拝むか見上げるために人が訪れる、そんな名所である。
 鉄道が生きていたなら、きっとこんな記事が雑誌に紹介されたことだろう。
 
【名古屋市内からのアクセス】
 知多半島行きの赤い電車に乗って、海水浴場で有名な新内海(しんうつみ)駅で降ります。右手に伊勢湾を見ながら海岸添いにひたすら南へと歩けば、約3時間で知多半島の先端・明神岬(みょうじんみさき)です。そこで待ち受ける荘厳な光景に、あなたは圧倒されること間違いなしです!
 
 3時間も歩いていられない人のためにこの場でタネ明かしをすると、知多半島とその南東に位置する渥美半島に囲まれた海は「三河湾」と呼ばれており、この湾内から巨大な白砂の塔が空へと突き出ているのだ。
 「巨大な」と簡単に言ったが、その規模は尋常ではない。直径が5kmはある。高さは判らない。塔の先端が見えないほど高いからだ。おまけに全部で3本もある。おかげで湾内にあった大小の島々が砂の下に埋もれてしまった。3本の塔はそれぞれが細身のソフトクリームのようなネジネジ構造をしており、どうやら上空で1つに合わさっていると思われる。
 
 ではなぜこのようなものが建っているのか? 地元の人に話を聞いてみよう。
 
「あの変な塔みたいなヤツかい? 覚えてるわよお! 去年(07年)の暮れにさあ、あたしが明神様にお参り行ったら岬のとこに藤乃原の先生がいたんだよお。そんで『あれ、先生なにやってんだろ』と思って。だってずーっと海のほう見てるのよ? 寒いのにねえ。前々から変わった人だなあとは思ってたけど。しかもよく見たら先生、こう構えるような感じで何だかデロデロデロデロ唱えてるのよ……。それまで先生が『ろーど』だってことは判ってたけど、どーんなことできる人なのか全然知らなかったからねえ。思わずジーッと見ちゃったわあ……。呪文? なんかこうグルグルとぐろを巻くような呪文だったわよ、気味の悪い。そしたらあんた、地面が鳴ったの。ズズズズって。あたしも『なんだろなんだろ?!』と思って、でも先生はずっとデロデロ言ってるわけ」(豊乃ヶ浜商工会のフミさん談)
 
 フミさんの話は長くなるので要点を簡潔にまとめると、この「藤乃原の先生」という人が呪文を唱えたら突如地鳴りが起き、湾から3本の塔がねじり上がってきたということらしい。塔は見る見る空へと伸びていき、はるか上空の1点で合流したかに見えたそうだ。
 
「いやあアレは俺の家からも見えたよ。地鳴りでムリヤリ叩き出されたしな。慌ててあたり見回したら暗いなかを白いのがこう3本伸びてて、『なんだありゃ』と思ってたらいきなり『ズゥゥーーーン!!!』て来てさ! あれが衝撃波ってヤツなんだろな、頭をこう、上から押さえ付けられたみたいだったよ! 『さっぱりわけわからん』ってそん時は思ったけど、これが後から聞いたら『核兵器』だったっていうだろ? いやあ……知らないところでトンデモナイ目に会わされるところだったんだなあ」(豊乃ヶ浜商工会の土井大五郎さん談)
 
 大五郎さんの話すとおり、昨年の暮れ、日本は諸外国の過激な一部から核攻撃を受けた。結局核はことごとく撃墜されたが、そのうちの1発――中京圏を襲った1発――を迎撃したのが、この「藤乃原の先生」なのだ。ネジネジの塔が高々度で核兵器と衝突。衝撃波と共に地上には塔の破片が降り注いだ。破片といってもカタマリではなく、砂がハラハラと舞い落ちたにすぎない。砂の雨は光の粒のように見えたという。塔は今でもその姿を保っている。
 ところで、この「藤乃原の先生」とは一体何者なのか? 方々に聞き込みして浮かび上がった人物像は以下のとおりである。
 藤乃原回帰[ふじのはら・かいき]――51才、男。元大学教員。専攻は戦略政治学。ペリュトーン噴出後は大学が休校となったので、家族ともどもこの知多に住んでいる。世間的にはテレビでのコメンテーターとして知られ、ソフトな外見とあふれる才気は、公共放送のみならず民放でも重宝がられた。
 その彼がここでは「テレビに出ていた人」としてではなく「核から守ってくれた人」として有名になっている。地元では伝説のロードなのだそうだ。
 
◇     ◇     ◇
 
 明神岬から西へ、海岸沿いに4kmほど戻ったところにある町――豊乃ヶ浜(とよのがはま)。
 先ほどから商工会の人たちには登場してもらっているが、この一帯は住人が比較的多い。もともとが町として機能してきた場所なので、たとえ人口が激減したとしても自然と人が集まりやすい。古参から新参者まで、老若男女問わず暮らしている。
 たとえばふと目をやると、防波堤で青年が佇んでいる。年の頃は20歳……といったところだろうか。海を見つめ、何やらブルブルと、まるで付けてもいないネクタイを締め直すような仕草をしている。どうやらなにか歌おうとしているらしい。あ、彼の背後に女の子が近づいてきた。でも彼はそれには気が付いていないようだ。彼女は手頃な大きさの石を持っている。……少し彼らのやりとりを見てみよう。
 
 青年は軽く顎を引き、おもむろに歌いはじめた。
「わたすぃぬぉ〜〜おふぁくぁ(突如後頭部に『ガツ』という音)っつ! いでぇぇえ!! おへっ! んだよいきなり!……って石!? うっそ、なんでこの石赤いの?!」
 青年は両目涙交じりで膝をついたまま後ろを振り返った。すたすたと防波堤の上をこちらに向かってくるのは、くだんの女の子だ。
「礼奈! なんだよこれは!」
 “レイナ”と呼ばれた当人は問いかけにも返事せず、そのまま彼の脇を通り過ぎて海を見渡しはじめた。潮風をもろに受けている。
「なんだ……てっきり麻衣子の初泳ぎでも覗いてるのかと思った」
「んなことするかよ!」
「ヒロならするだろ」
「だいたいまだ5月だろ! いくらあいつでも早いって!」
 後頭部への傷害容疑は放置したままでの愚にもつかない問答。それをピタリとしずめてみせたのは――、
「あ! 見つけたぁああ!」
 どこからともなくあがった嬉しそうな声だった。見ると市街地のほうから、もうひとり女の子が駆けてくる。ショートめのボブが似合う、礼奈が“マイコ”と呼んでいた女の子だ。走らなくてもいいのに走って、ふたりのもとへと一直線でゴール!
「はぁ……もぉ走って疲れちゃったよ! ふたりとも何してるの? 回帰先生待ってるよ?」
 麻衣子は疲れたと言っていたくせに、休む間もなくふたりの手を掴んで連れ帰ろうとした。そして楽しそうにふたりに振り返り、彼女はこう言った。
「暖かくなってきたらさ、新しい人たち、もっともっとこの町に来るかな?」
 人が集まる町――豊乃ヶ浜。そういえば今日は、新しい住人との親睦会だった。ふたりは麻衣子に尋ねられて一瞬言葉に詰まった。足も止まってしまった。
 でも、結局ふたりが返したのは同じ言葉だった。
「「うん、もっと来るはずだよ、この町には」」
 
シナリオ傾向など
推奨対応人数 ★★
最大対応人数 ★★★
シナリオ危険度 ★★★★
キーワード 『人の営みが残る町』『理想と手札』『真実よりも関係性』

イラスト=桜瑞
 
 
 
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