運命準備委員会 Sommerbrautは寂かに告げる
 


 
 
 
ルール解説
 
 
 
『片恋同盟』
孝岡春之介、他 Takaoka, Chunnosuke & Others
 
「知ってます」
 好奇心か下心か親切心か、自分でもなんともわからない感情に駆られた淡島駿一[あわしま・しゅんいち]の話に、古宮あやめ[ふるみや・−]は答える。
「何人か、親切な方から教えてもらいました」
「え? あ……っ、そう。ならいいんだけど」
 なんとなくバツが悪くなり、頭をかく。不要な忠告をしたことが、自分が彼女に話し掛けたのも、たとえば他の連中と同じように、なんかのきっかけで仲良くなろうなんてことを考えていたからだったように思えたからだ。
 駿一があやめに告げた話とは、恋愛賭博と称される、彼女の心にかけられた賞金のことであった。表立ってのことではないが、一部の生徒たちの間に広まっていた下世話な楽しみ。目の前の少女と仲良くなり、好きになって貰えた者には多額の賞金が与えられる。それ以外にも副賞があるとかなんとかといった話もあるようだ。
 最初耳にした時はいい加減な噂かと思った駿一であったが、友人より彼女の写真が載せられた賞金首めいたチラシを見せられ、本当に行われているのだと思うようになった。チラシそのものを誰かが面白がって作ったということもあるだろうが、ちゃんと目的を達成した際の連絡先まで記されていたのだ。文句を言ってやろうと行ってみたら、廃校舎だったが。
「別に誰かと仲良くなろうなんてつもり、私にはありませんから」
 お気遣いなく、と頭を下げるあやめに、ならいいんだと駿一も手を振って、別れることにした。どうやら余計なお節介だった……ということか。
 ――しかし、なぜこの少女だったのだろうか。大きな騒ぎにしたいのであれば……言い方は悪いが、もっと見栄えのする娘を選んだ方が良いだろうに。あやめの顔立ちは、それなりに整っている方だとは思うが、とにかく地味だ。年の割に大きな体付きではあるが、かといってプロポーション抜群というわけでもなさそうだし。
 
 古宮あやめは、誰からも特に相手にされないような少女だった。それは、彼女が誰をも相手にしようとしないのだから、仕方の無いことだが。
 私立八十神学院の本校中等部に属する、2年生。14歳。眼鏡をかけていて、いつも俯き加減。長くも短くも無い髪の毛は、肩の辺り、左右でそれぞれ縛ってまとめてあるが、そこに洒落っ気はない。いつも変わらぬ無表情で、口数も少なく、喋る時はぼそぼそと、ちょっと騒がしいともう聞き取れない。輪楔者として優秀というわけでもなく、学業成績も運動神経も芸術的センスも人並。雨に濡れた子猫を助ける優しいところを目撃されたこともないし、草木の世話をする時は笑顔を見せるなんてこともない。その上で人付き合いもまともにしないのだから、用がなければ誰もわざわざ相手にしない。恋人は勿論のこと、友人も幼なじみも彼女には居ない。家族構成は母親のみで、本校の事務員として働くその母親も仕事のため、あまり家には居ないらしい。
「なるほど、孤独な少女というわけだ」
 濃い褐色の肌の眉目秀麗な青年が、眼下を1人歩く少女に目を向けながら、彼とは対照的に真っ白な肌の艶やかな美女にそう告げる。
「だから、どこかのお節介があの子に恋人作ってあげようとしたってこと?」
 そりゃご親切なこと、と肩をすくめる。美女の大きな胸も合わせて揺れた。
「……ありえないわね」
「僕もそう思う。……さて、こうなると話を振ってくれた先生に感謝するべきかな」
「三谷先生は、ただ腹が立っただけでしょうけど。……それじゃアルバート、同盟のみんなに協力を要請する?」
「そうだね、麗羅。とりあえずは手の空いている者だけでいいが……『片恋同盟』のみんなに連絡を」
 
 私立八十神学院には、「片恋同盟」と呼ばれる団体がある。学院に認められた委員会でもクラブでもなく、また同好会というほどのちゃんとした集まりでもない。サークル……にすら至らず、彼らの心情としてはおそらく秘密結社と言った辺りに相当するだろうか。もちろん、本物の結社ほどに厳しいものではなく、あくまで子供の遊びの範疇であるが。
 正しくは、「絶対に失敗したくない恋に悩む少年少女たちのための相互同盟」という名称らしい。その名が示す通り、このサークルに参加できるのは、片想いに悩む少年少女たちだけで、しかも高等部までに限られる。失敗したくない片想いに、本気で悩んでいる生徒だけが、このサークルに参加することを許されるのだ。
 それがどんな片想いなのかというのは、勿論人それぞれである。
 ――本当の本当に相手のことが好きで、好きだからこそ失敗したくない。
 ――友人の恋人のことを好きになってしまい、告白したくともできない。
 ――血の繋がった肉親を好きになってしまった。
 とにかく真剣に恋愛に悩む生徒たちが集い、その悩みを打ち明けあうことで少しでも心の重しを軽くできればいいというのが、この同盟の趣旨であるらしい。場合によっては会員の恋の成就に協力したこともあったらしいが、原則としては「悩みを吐露してすっきりする会」という所で落ち着いている。また、そういった事情を相談し合う以上、このサークルの会員同士、同じ「片恋同盟」に属するということ以外の関係性は、むしろ薄いことが多い。知り合いに自分の恋が知られ、それがきっかけで失敗することになるかもしれないのだから当然だろう。
 同盟に参加するには、会長と副会長の許可を得るというのが代々の慣わしとなっている。当代会長は高等部3年の男子、御簾間アルバート[みすま・−]で、副会長は高等部3年女子の鳴笛麗羅[なるてき・れいら]。共に恋愛経験豊富な美男美女と学院内でも名高く、2人の助言は悩める少年少女たちの心を軽くしてくれるともっぱらの噂だ。その一方で、どうしてそんな2人が片想いに悩むこの同盟に参加しているのかは大きな謎とされていたりする。なお、同盟には独自の調査機関があり、片想いに悩んでいない者や、あるいは誰かと両想いになった者は、すぐに明らかとされ、同盟からの脱退を強いられてしまうらしい。
 
 駿一の携帯電話に「片恋同盟」からの秘密連絡が届いたのは、その日の午後のことであった。会長からのメールには、古宮あやめの心を弄ぶこの賭博行為は、恋に真剣に悩む同盟会員には看過しづらいものであり、故に彼女が心持たぬ欲深き者の犠牲となることを防ぐと共に、その胴元を明らかにし誅しようとの旨が記載されている。
「……会長、相変わらず、ノリがいいなぁ」
 会の原則は「悩みを吐露してすっきりする会」だが、今の会長になってからはこんな感じのイベントも時折開催されている。参加不参加は自由なので、会員のストレス解消となるレクリエーションに丁度いいと好評だ。
 駿一としても丁度気になっていた件ではあったから、とりあえず関わってみることに決めた。どうしてだろうか、古宮あやめというあの少女のことが気になってならないのだ。
 ……もしかしたら、あやめのことが好きになりかけているのだろうか。今の叶わぬ恋に悩む必要もなくなるのなら、駿一にとっては幸せなのだろうが――。
 
 
 
【シナリオ傾向など】
対応人数 〜30名
キーワード 『みんな愛のせいね』『ゲンキ力爆弾』『カギのかかる天国』『スナオになりたいね』『あなたをあきらめない』『うれしいひとこと』『謝々ByeBye』
推奨『属性』 【強靱】
 
【選択肢】
A010300【強靱】「古宮あやめをガードする」(「片恋同盟」に所属する方のみ選べます。「片恋同盟」会員としてどのような恋に悩んでいるかは設定別紙等に記載して下さい。)
A010301【魅力】「古宮あやめにアプローチする」(「片恋同盟」に所属する方は選べません。シナリオ上、やられ役となる可能性が極めて高いので、その役割がむしろ美味しいと思え、そうなる覚悟が固まった方にのみお奨めします。)
A010302【賢明】「恋愛賭博の背後関係を探る」(「片恋同盟」に所属する方のみ選べます。現時点での手掛かりは、チラシに書かれた廃校舎のみです。「片恋同盟」会員としてどのような恋に悩んでいるかは設定別紙等に記載してください。)
 
 
 
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