運命準備委員会 Sommerbrautは寂かに告げる
 


 
 
 
ルール解説
 
 
 
『Master Mind』
波島想太 Namishima, Souta
 
「すみません……この人を、見ませんでしたか?」
 呼びかけられて周囲を見回す。はて、声はすれども姿は見えず。
「あの! こっちです!」
 強めの声でようやく気付く。声の主は背伸びをしながら、こちらに手を振っている。軽く詫びると、声の主は写真を差し出して、もう一度訊いてきた。
「この人をどこかで見ませんでしたか? 漆原かもめ[うるしはら・―]という人なんですけど」
 気の強そうな少女、というのが第一印象。広い額と鋭い瞳、そして整った容姿。ごく自然なカメラ目線は見られることに慣れている証拠か。しかしモデルやアイドルとは放つオーラが違う。どこか冷たい、嘲笑うような視線は、現像された写真を通していても威圧させる何かがある。
 見たことはない、と答えると、今までそう言われ続けていたのだろう、落胆というよりは疲れのようなものを表情に浮かべ、しかしすぐにこう付け加えた。
「ぼくは中等部の天沢公[あまさわ・こう]って言います。この人をもしどこかで見たら教えてください」
 公は連絡先を書いたメモを手渡して、礼儀正しくぺこりと頭を下げた。短くカットされた柔らかそうな髪が、ふわりと舞った。幼さの残る顔立ちは、先程垣間見せた疲れを押し隠して、次に聞き込みをする相手を探していた。
 
◆     ◆     ◆
 
 見たことはないが聞いたことはある、くらいは言ってあげてもよかったか。しかし自分の知っていることは誰もが知っている噂程度、おそらく公も知っている。
 漆原かもめ。資産家の一人娘として生まれ育ったが早くに両親を亡くした。受け継いだのは遺産だけでなく、他者はすべて自分の目的を達成するために居るという、歪んだ帝王学。八十神学院には中等部から入学したが当然友人と呼べるような存在はまったくいなかった。
 となるとしかし公は何だろう。かもめに晴らすべき恨みがあって追い求めているようには見えなかったが。
 閑話休題。かもめは今年の四月に高等部に上がって、先月から自主休学し、そのまま行方をくらましている。「現世から転生に逃げた」──絆をなくした輪楔者の末路をかもめもまた迎えたのだと、彼女の言動を知る者は声を潜めて言う。
 一方で、かもめに常識はないが頭はよいという評価もあった。確かに、体育も含めて成績は良かったようだ。
 周囲の者を小馬鹿にするだけでなく、輪楔者という存在自体を見下していた、という噂も聞いた。他にいくつかの逸話もあったようだが……それは思い出せない。真偽の程の定かでない、憶測とも陰口とも取れるようなものばかりだったような気がする。
 失踪ということで捜索もされたが、そこで見つかっていれば公は聞き込みなどしていない。人一人を捜すには、八十神学院は少しだけ広い。それに本当に輪楔者としての生き方に嫌気がさして山を下りたのだとすれば、すでに「絆」は失われている。そうなったら、誰も彼女を見つけられない。
 
◆     ◆     ◆
 
 風に吹かれた紙切れが足元に絡みつく。そこに書かれていた単語が気になって、思わず拾い上げる。
「『鬼ごっこ』参加者募集。あなたの度胸と実力を試してみませんか?」
 鬼ごっこ、と来たか。ずいぶんと懐かしい。そのチラシには、月夜の晩に学院の片隅にある廃校舎からある物を取ってきたら、賞金か賞品を出す。その廃校舎の中に鬼が潜んでいるから、捕まったらゲームオーバー、ただし腕に自信のある者は反撃をしてもよい、とある。取ってくる物が何かは当日に発表されるらしい。
 舞台となる廃校舎は、戦前に建てられた木造建築で、三十年ほど前にその役目を終えた。建物は五階建てで、案外に広い。別の施設に流用する計画もあったが、学院の中心部からのアクセスが悪いということで、結局そのまま放置された、ということになっている。
 こういった廃屋は危険であるから、本当ならば解体するのが望ましいのだが、なかなかそこまで手が回らない、と生徒会だか風紀委員会だかが嘆いていたらしい。同様の廃墟が、学院のあちこちに点在しているのは、中心部の開発に力を注いでいるためだろう。
 輪楔者のさだめと鬼ごっことがどう重なり合うかはわからないが、退屈しのぎには、なるかも知れない。
 本当は、それほど、退屈でも、ないのだが。
 
 
▼「参加型アクション講座」について
 このシナリオは「参加型アクション講座」です。通常のシナリオと同様に物語があり、プレイヤーは従来通りにアクションをかけることで物語に参加します。そしてリアクションには、従来通りの小説型部分と、アクションに対する講評部分があります。
 小説型部分は、必ずしもすべてのキャラクターが登場するとは限りません。名前も登場しない、いわゆる「不採用」があります。
 講評部分では、不採用になったものも含めてアクションやキャラクター設定を紹介し、ここがよかった、的を外していた、こうすればもっと良くなる、などの講評をします。
 「駆け引きに関する部分なのでこの部分は公開しないで欲しい」という要求はナシです。なるべくオープンにして、他のプレイヤーがどんなことを考えているのかということを、みんなで情報交換したいと思っています。
 ということで、当シナリオはそういった情報戦、駆け引きを望むプレイヤーにはお勧めできません。ただ「いつかは駆け引きに挑戦してみたい」という方には参考になることもあるでしょう。
 場合によってはちょっと強い書き方で指摘をするかも知れませんので、そういったことに抵抗のある方は、まずは参加せずにリアクションだけを読んでどんな風に講評されるのか様子を見て、それから参加するかどうかの判断をしてもよいでしょう。途中参加も大歓迎です。
 アクションの行動補足別紙は読みません。要旨を短くまとめるのもアクション技術のうちですから、意識してアクション用紙に収めてください。
 キャラクター設定別紙は参照します。特に序盤はキャラクターメイクについて重点的に解説する予定なので、もしよければちょっと頑張ってみてください。
 また、その回のアクションとは直接関係ない質問、要望(こんなテーマで解説して欲しい、など)なら別紙をつけても構いません。
 ちなみに、波島が得意としているのは「キャラクター小説的」なリアクションです。当シナリオで解説するアクションの考え方は、ゲーム内で何か具体的な成果を挙げること(例えば自分の所属する陣営が勝利するとか、世界の謎を解き明かすとか)よりも、キャラクターが生き生きと描写されることに喜びを覚える人に向いています。一般に通じる部分もあると思いますが、基本的な方針はキャラクター描写中心の考え方です。
 ともあれ、もっとリアクションで活躍したいけれど、どこに気をつければいいのかがわからない、という方は、ぜひ一度遊びに来てください。
 あなたのメイルゲームライフが、より楽しいものになりますように!
 
 
 
【シナリオ傾向など】
対応人数 特に定めません。ドンとこーい!(あっでもあまり多いと小説型部分での不採用が増えるかも)
キーワード 『参加型アクション講座』『小説型部分とアクション講評』『小説型部分は不採用あり』『講評ではアクションやキャラ設定を公開することもあります』『キャラクター小説的リアクション』『廃墟』
推奨『属性』 『鬼ごっこ』に参加するなら、最低ひとつは戦闘、または逃走、隠密などに適した『運命』があった方がいいかも知れません。
 
【選択肢】
A011200【強靱】「『鬼ごっこ』に参加する」
A011201【知識】「『鬼ごっこ』とは別の日に廃校舎へ行ってみる
(この選択肢を選んだ場合、『鬼ごっこ』には参加できません)
A011202【賢明】「その他の行動でこの件に関わる」(この選択肢を選んだ場合、『鬼ごっこ』には参加できません)
 
 
 
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Play By Mail Role Playing Game, From July 2006 To July 2007, Produced by ELSEWARE, Ltd.