運命準備委員会 Sommerbrautは寂かに告げる
 


 
 
 
ルール解説
 
 
 
『君を守るために僕は夢を見る』
古賀かえで Koga, Kaede
 
「……統合風紀委員会からのお知らせです。ただいま、野良猫注意報が発令されています。凶暴な猫による被害が相次いでいます。猫を見かけても、近寄ったり触ったりしないようにしてください。また、猫が群れを作っている区域などありましたら、放送室の上月綾風(こうづき・あやかぜ)まで、どんどん情報をお寄せください。被害増大を防ぐため、ご協力をお願いいたします……」
 今日はなんだか騒がしい。
 
 下校しようとした君の鼻先を、しゃりしゃりと独特の衣擦れの音をさせて、スキーウェアが歩いていく。しかもふたり。今は十月、八十神学院校内である。スキーウェアの生徒は非常に珍しい。というか、前代未聞だろう。歩くのも忘れて目で追った。
「何見てるんだい?」
 ひとりのスキーウェアが振り向き、凛々しい女性の声でしゃべった。
「あたしは野々村風鈴(ののむら・ふうりん)。スキーウェアなんか着て、何してるんだって顔してるね?」
 それはまあ、そうです。
「ネコ、追いかけてる……」
 答えたのは、もうひとりの、比較的小柄なほうのスキーウェアである。
「私は流々家えり子(るるか・−こ)……。これ、着てれば、ネコの爪も牙も怖くないから……。
 な、なるほど。
 そのまま、風鈴とえり子は猫の群れを探しに行ってしまった。しゃりしゃりしゃり。
 その後に続いて現れたのは熊だった。山かここは。
 熊にしては中肉中背だと思っていると、熊の皮の下から人の顔が現れた。白髪赤眼の少年、額には、第三の眼のようなオルトルートの紋章と、紋章を縦に両断する傷跡がある。
「怪しい者ではないです。九十九髪那須(つくも・なす)と言います。マーキングしてるんです。学校の壁に」
 マーキング? どうしてまた。
「熊のテリトリーに入りたがる猫は少ないでしょう?」
 ははあ。
 それはそうと、その新鮮な熊皮はどこから。
 君にはうかがい知れないが、彼にもいろいろ経緯があるのだろう。
 
「みんながんばってるねえ」
 君に声をかけたのは、赤毛の少年だった。
 人の背丈ほどの高さのブロック塀に乗っているため、しゃがんでいても君より目線が高い。
 ブロック塀には張り紙がされている。最近校内でよく見かけるようになった張り紙だ。野良猫の被害者を失くすため、一般生徒の皆様からも協力者を募集しております。ご丁寧に統合風紀委員の判が押してある。
「俺は工藤トキオ(くどう・−)ってモンだ。あんたも猫を捕まえに来たのかい?」
 いえ、別に……。
「そうかい。統合風紀のお嬢さんが言うには、猫を追い払ってほしい、でも猫に危害を加えたら死刑、だとよ。ちょいとヒステリックに過ぎやしないかねえ」
 トキオはへへっと笑った。
「死刑は別にしても、猫に危害を加えるのは避けたいがね。猫にも事情があるんだろうしさ。黒幕がいるなら、穏便に話し合いたいじゃねえか。一発殴っちまってからじゃあ、できる話もできなくなる」
 トキオは君を手招いた。近づいた君は、トキオに塀の上まで引き上げられる。細い足場になんとか立ち上がると、塀の向こう側がかなり遠くまで見渡せる。
 右手に広がる小規模な森から、小道が伸びている。小道にも、猫が群集していた。思い思いの姿勢で陣取っている。トキオはそれを指し示した。
「校内全体の猫の配置から見て、あの先に何かがある違ぇねぇんだ。まずはそれを確かめてからじゃねえか?」
 簡単に言うけど、猫が小道を守っているみたい。
「猫を吹っ切って走ればいい」
 あんなにたくさんの猫を? それは無茶だよ。
「そうかい?」
 トキオは赤毛をくしゃりと手でかき回した。
「俺は昔、役人どもから逃げ回る盗賊だったんだぜ。盗賊っても、義賊だ。金持ちのいけすかねぇ野郎の物しか盗まねぇ。あちらの路地からこちらの路地へ、街中を駆け回ったものさね。駆け足ならお手の物だ」
 トキオは塀から身軽に飛び降りると、準備運動のように伸びをした。
「『運命』なんてあんまり使いたいもんじゃねぇんだが、今回は仕方ねぇか。あんたもいるしな」
 ?
 君は自分を指差す。
「背中、乗れよ。いやじゃなければ」
 トキオは軽くかがんで君に背中を見せた。
「まあ、多少身体は小せぇけどよ。あんたくらい運べるぜ。見極めたいなら、来いよ」
 君は迷った。しかし、トキオの言葉に乗ることにする。
 
 君を負ぶっているにも関わらず、トキオは速かった。猫の群れを引き離して駆け抜ける。木の根にときどき躓きそうになるのも、君をはらはらさせるポーズなのではないかと疑うほどに、颯爽とした走りだった。
 多少の上ったり下ったりはあったが、学校の敷地内のことである、目的地にはすぐに着いた。
 トキオは目の前に聳え立つものを困ったように見上げながら、君を地面に降ろした。
 陽の光を遮る、古い洋館だった。
 凝った装飾の施された玄関の前には、鬼山神斗(おにやま・じんと)と世津岡カラシ(よつおか・−)がいる。どうやら先にここにたどりついていたらしい。
 洋館の扉は既に開けられていて、中からこぼれだしたような三匹の猫が、地面にへたり込んだカラシにじゃれついている、というか、噛み付いている。中は、と見ると、電気も通ってなさそうな薄暗がりの邸内に、無数のうごめく気配と三日月に光る眼がある。
 携帯電話で話す神斗の声が漏れ聞こえた。
「ああ……だめだな、入ろうとすると次々に猫が襲いかかってきやがる。これだけの数の猫が守ってるんだ。中に何かがあるのは間違いねえさ」
 
 統合風紀委員、新町緋菜子(しんまち・ひなこ)は、四階の教室の窓に腰かけて、中空に足をぶらぶらさせている。窓からは校内の様子がよく見えるのだった。
「みんな、優秀優秀。お仕事を斡旋した私としても、鼻が高いよ」
「緋菜子、ここ四階だよ。危ないよ」
 書類を整理しながら心配そうに声をかけたのは、同じく統合風紀委員の香坂ゆりね(こうさか・−)である。
「だいじょうぶだいじょうぶ」
「ぱんつ、見えるよ」
「高いから見えないよ。ていうか、ゆりねに言われたくないねっ。ゆりねだってときどき見えてるよ」
「見えてないよ」
「見えてる」
 緋菜子はひょいっと窓から飛び降りると、ゆりねの背後に回ってスカートを押さえた。ゆりねのもちもちした頬に頬をくっつける。
「気をつけてね?」  
 
 
【シナリオ傾向など】
・対応人数:30人
・キーワード
『猫』『メイルゲームクラシック』『アクション次第』『ルージュになりたい』『目に映る私を信じないでいて』
・推奨『属性』【器用】【賢明】
 
【選択肢】
A038500【賢明】「統合風紀研修生として猫屋敷に潜入する」
A038501【強靭】「猫屋敷に潜入する」
 
 
 
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Play By Mail Role Playing Game, From July 2006 To July 2007, Produced by ELSEWARE, Ltd.