運命準備委員会 Sommerbrautは寂かに告げる
 


 
 
 
ルール解説
 
 
 
『未完成なわたしたちの冒険』
金華山鹿之介 Kinkazan, Shikanosuke
 
 私はこの画廊ミサンセーヌの店主だ。
 ここに集う学生さんからはマスターと呼ばれている。
 ミサンセーヌはおもに名画の複製絵画と、新人作家の作品を取り扱っている。一方でアトリエを若い才能に開放している。
 そのため、放課後になると、八十神学院の学生さん達が私の画廊に姿を見せる。
 妻子もなく40に手が届いた私にとって若い学生さんとすごす時間が退屈な人生に彩りを与えてくれる。
 もっとも私ができることといえば彼らにちょっとした助言と会話のテーマを提供するだけだ。
 あとはお菓子とお茶ぐらいかな。
 学生さん達はミサンセーヌで自由に時間をすごす。
 ある者は絵画の模写に精を出し。ある者は彫刻を刻み。あるいは日々感じたことを語らっている。
 ミサンセーヌに集う学生さん達は特設校に入っていないという。特設校に入っていないからこそ、こんなちっぽけな画廊に集まるのだろう。
 群れるのを嫌った者、追い出された者、出てきた者、きっかけを失った者、浮いてしまった者、一歩が踏み出せなかった者……。
 そういう子達がここを『逃げ場所』にしてくれる。
 別にそれは構わない。
 埋もれた才能は、こういう場でこそ育つものだ。
 若い才能が開花する瞬間を見ることこそ私の最大の楽しみなのだ。
 今日もテーブルを囲んで彼らが熱心に討論をしている。
「……アレに後れをとってしまったわ」
「今回のアレの“怪人”は手強かったね」
「次は負けない……」
「俺が倒す。手を出すな」
「それは私たちの台詞よ」
 また、隠語をつかって話をしている。
 私は、彼らが意味深に言うアレが何なのかを、問い正したりしない。
 彼らは何か隠し事をしている。
 誰かと競っているのか争っているのか。
 私はそれを詮索しない。
 彼らは持て余した力の発散の場を求めているのだ。
 それはちょっとした肝試しだと私は理解している。
 深夜の学院から指定のアイテムを持ち出すとか、逆にアイテムを返すとか。
 やっていることは学生にありがちなイタズラだろう。
 ただ私は彼らが欲するものを気付かぬふりをして提供するだけだ。
 そして、そんな彼らのことを、どこで聞いてくるのかわからないが、私の店には奇妙な依頼を持ち込んでくる人たちが後を絶たない。
 今日も1人の婦人が店を訪れた。
           ◆
「私は話を聞くだけです。解決に力を貸すことは出来ませんがよろしいですか?」
 私はいつもの決まり文句を口にする。
 実際、私は何もしない。ただお話を聞くだけだ。
 それでも依頼主は悩みを口にせずにはいられない。
 婦人は言葉少なく話を始めた。
 郊外の小さな美術館に死蔵されている絵画がある。
 その絵画を死の床にある祖母に一目見せたいという。
 ダースの描いた『愛しのアロア』という題名の油絵だ。
 私は、ダースという画家について、記憶を掘り起こす。
 ダースはベルギー出身の画家だ。ルーベンスに多大の影響を受けたらしい。夭折した彼の絵画が世に認められたのは70年代だが、彼の描いた絵画は数えるほどしか残っていない。
「つまり、その絵画はあなたのおばあさまの所有していたもので、戦後、盗まれた物だというのですね」
 婦人は言葉少なく当時を語ってくれた。
 その絵画は数少ないダースの真作だという。
 盗まれたあと、絵画の所有者は転々としたらしく、最近になってくだんの美術館に死蔵されていることがわかったという。
 私は静かにうなずいた。
「いろいろな所に助力をお願いしましたが、想いが叶うこともなく……。
 祖母が死ぬ前にどうしても一目見たい、と。その願いを叶えたいだけです。ひとめ見せるだけで良いのです。絵画の所有権を申し立ててもおそらくムダでしょうから」
「わかりました」私はそっと彼らを見た。
 彼らは、こちらを見て見ぬふりをしている。けれど聞き耳を立てているのはわかった。
「あなたの想いが正義の味方に伝わり、思いが遂げられんことを私も願います」
           ◆
「ダースの絵をみたいのですか?」婦人が帰ったあと、彼らは私にそう尋ねた。「ウチにあるダースはこの1枚だけです」
 風車小屋を描いた風景画だ。
 木炭で書かれたとは思えないほど繊細な筆致。作者の優しさが伝わってくる。
 彼らはじっと絵画を見つめている。
「この絵に題名はついていません。後世の人によって『ダースの水車小屋』と名付けられましたが。
 もっとも、これも複製ですよ。
 せっかくの機会ですから、来月のサロンのテーマはダースにしましょうか。
 みなさんがダースについて、感じたこと。思ったことを自由に話しましょう」
 彼らが帰ったあとで、私はかの婦人の住所を書いたメモが消えているのに気がついた。
 そして、あの美術館のパンフレット(詳しい見取り図がついている)も消えていた。
 彼らは正義の味方だ。
 彼らがなんのために、それを行っているのか、私にはわからない。
 自分を磨くためかもしれない。
 イタズラ心かも知れない。
 虚栄心かも知れないし。
 義侠心かも知れない。
 だが、私は知っている。
 彼らは、なにか大きな目的のために正義を為しているのだと。
 だから、私は何も言わない。何も聞かない。
           ◆
「盗み出すのは簡単じゃないよ」
「それをまた気付かれずに戻すのもね」
「アレが狙ってた美術館だよね?」
「アレの怪人と戦うことになるね」
「さて。どうしようか?」
 
 
 
【シナリオ傾向など】
・対応人数:30人
・キーワード
『高校生PC限定』『特設校に入っていないこと』『悪の秘密結社 アレ』『やっぱり怪人は出るでしょう』『ヒーローはヒーローらしく』『人知れずが基本』『変わらない日々の幸せ』『日常の大事件』『あなたの過去』『交流重視』『運命』『過去からの囁き』『絆』
・推奨『属性』特になし。
 
【選択肢】
A023400【筋力】「アレの妨害を阻止する」
A023401【賢明】「婦人の願いを叶える」
A023402【魅力】「サロンにて『ダース』を語る」
 
 
 
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