サンプルリアクション No.E020800  担当:        山城一樹 「GGWF興業 夢のタッグマッチ地獄変   〜山城シナリオ追加ルール      【タッグマッチ】のサンプルリアクション〜」 ――――――――――――――――――――――――――― タッグルールのサンプルアクションをリアクション形式にまとめたものが、下のリアクションです。 本編とはまったく関係のない、架空のリアクションです(いわばIF世界です)その旨ご理解いただいた上で、下記リアクションをご覧ください。  リング上では、二組のレスラーたちがレフェリーからボディチェックとルール説明を受けていた。  赤コーナーにいるのは、サラ・オブライエン[−・−]とエイブラハム・リンカーン[−・−]の《祭主》と《祀徒》。  青コーナーにいるのは、薄紫色のタイツを穿いた男性レスラーのユーアー平田[おまえだろ・ひらた]と、いぶし銀の髪を丁寧に後方へなでつけた紳士レスラーのクラッチ・キッド[−・−]のふたりだ。 <さあ、始まりました! 『偉人杯』島根県立格闘技専門体育館興業のメインイベント>  野次とひやかし、そして応援と段取りを読まない単発の拍手。地方興行独特のまばらな歓声に抗うように、実況席では、TV局のスポーツ部アナウンサーのフルタッティ・チーロ[−・−]がひとりがなり立てている。東洋スポーツの編集長で解説を務める原田康[はらだ・やすし]は、フルタッティの隣で置物のように座っている。 <『正統派師弟コンビ』対『ベテランゼンザーズ』のタッグマッチの火ぶたが今まさに切られようとしております>  フルタッティの語尾にあわせるようにゴングが鳴った。  師弟コンビ側の先攻は、サラだ。はちまき型のマスクの尾を軽快に揺らしながら、前に出る。  一方の『ベテランゼンザーズ』側は、平田が前に出た。  平田の動きは、見た目通りに鈍重だった。めりめりと内側からはじけてしまいそうな量感の筋肉と、それを覆う浅黒く日焼けした素肌。そしてその胴体と太い首でつながった顔は、平家ガニの甲羅のように無表情で無骨だ。マスクをかぶっているときのほうが、まだ人間的に思えるくらい、無機質な表情だ。  サラが、前に出た。俊敏に右足を繰り出す。 <サラのロー! それからハイキックにつないで平田の顔面を強襲奇襲攻撃! さらにミドル、ミドル、ミドルの嵐。平田は防戦一方。ひとりノルマンディー上陸作戦のごときサラの猛攻に、しかし平田は現代に蘇ったガンジーのごとく無表情に蹴りを受けるのみであります>  ひとしきり蹴りを放ったサラは、フットワークを駆使しながら、リング内をまわる。平田が、鈍重な足取りで、しかし確実にサラを追っている。  サラが、また踏み込んだ。前蹴り。平田は、ガードしようとするが、平田の腕の動きより速かったため、もろに腹に受けた。 <サラの前蹴り! これは効いています! 平田たまらずコーナーまで逃げますが、そこは青コーナーではありません! キッドへタッチする前にサラへ追いつかれてしまいます。これはメーンイベントにして本日最短試合となるのでありましょうか? いかがですか、原田さん?> <平田選手、あれは足に来てますね。今後の試合に影響がないといいんですが>  観客が騒いでいる。平田の鈍重さを野次っているのだ。  なにを言っているんだ、なにもわかりもしないで。サラは、そう思う。  平田へ与えた攻撃は、なにひとつ効いてはいない。さっきの前蹴りも、その前のハイもだ。  平田は、致命的な打撃になるものだけを両腕や膝をあげて受けている。ガードできっちり威力を殺して、それ以外のものはすべて自分の筋力でバンプしているのだ。  平田は、華がない。風情もない。人気もない。運もない。金もない。だが、キャリアがある。技術がある。そして恵まれたフィジカルがある。高い霊力もある。  それらのレスリング技術を駆使して、ひっそりと前座という低みからサラを一敗地にまみれさせようとしているのだ。  平田が、前に出てきた。腕を水平に伸ばしている。ラリアット。これは、受けなくてもいいはずだ。サラは、頭を低くして、平田の後方へ回り込むようにラリアットをよける。  平田が振り向くより先に、背面から平田の右内腿に、ロー。それから、振り向いたところへサイドキック。鳩尾。これは入った。  掌底。これも入った。まだ、平田は受けるつもりなのか。サラは一瞬だけ驚愕し、そのままハイキックを入れた。  観客がどよめく。角度、威力、タイミング、すべてが危険な一発だった。平田が転倒する。  サラは、平田の上にかぶさるようにフォールする。  レフェリーがカウントを入れるが、平田は2で跳ね起きる。 <カウント2.5! 平田、ベテランの意地を見せます> <サラ選手もこれで決まるとは思っていなかったようですね>  平田が、頭を振りながら立ち上がる。いかにもサラの蹴りが効いているといったゼスチュアだ。本当なのか。ブラフなのか。サラにはわからない。  リンカーンは、赤コーナーで無言。サラは、リンカーンから叱咤されているような気がした。  また踏み込んだ。掌底。平田の頬桁に命中した。平田の膝が崩れ落ちる。これで、決着なのかと思った直後、胴体になにかがしがみついてきた。背後から。  見かねたクラッチ・キッドが、平田を助けるためにノータッチで介入してきたのかと思った。そのとき、眼下に平田がいないことに気づいた。掌底を受けてダウンしているはずの、平田が。  まさか。  この、背後から自分の腰をクラッチしている、筋骨たくましい両腕は。  おまえは、平田だったのか!  後頭部がマットに激突し、目の前で火花が散った。ジャーマンスープレックス――だと思う。  火花が消え、薄暗いまま視界が復旧してきた。  平田が無愛想に腕をあげてアピールしてから、右手でサラの髪を掴んで引き起こしてくる。髪の毛だけで引っ張ってるのではなく、実際に力を入れて引っ張っているのは、腕を掴んでいるほうの左手だ。  また、衝撃。至近距離からのラリアットだ。 <出ました! 二度目の正直・ゼロ距離ラリアット! 平田がダウンしたサラを見下しております。それでもチャンピオンなのか、暫定チャンピオンを名乗れるのか。今じゃ時代遅れになった『俺たちの時代』はこんなものじゃなかったぞ! そういう平田の気迫が我々の耳に届くようであります!>  レフェリーが、サラの顔をのぞき込んできている。それでようやく、サラは、自分が重大なダメージを負ったことに気づいた。たった二度の攻撃だけで。  リンカーンがコーナーから飛び出してきた。クラッチ・キッドがそれを迎撃している。  平田に、跳ね起きざまに膝蹴りを叩き込む。平田はびくともしない。さっきまでのゼスチュアはなんだったのか。サラの切望を裏切るように、平田はかたちだけよろめいてみせ、サラにつかみかかってくる。  ボディブロー。肝臓に鈍痛を感じ、体をくの字に折ってしまう。平田の右肩が顔に押しつけられていた。  フライングメイヤー。平田の肩ごしに、頭を抱えて背負い投げられ、サラはマットに転がった。  重い。平田がのしかかってきた。フォールだ。逃げられない。  カウント1.5で平田が悲鳴をあげて飛び退いた。  キッドを追い払ったリンカーンが、コーナーポストからのダイビングヘッドバッドで平田の腰を痛打したためだ。 <カウント1.5! サラ、師匠のアシストで命拾い! 首の皮カウント1.5で助かりました>  サラが立ち上がる頃には、リンカーンが平田を引き起こし、チョップの雨あられで苦しめている。  サラもようやくペースを取り戻した。リンカーンとふたりで平田の頭を脇に抱え、両腕をそれぞれ肩に担ぐ。平田を垂直に抱え上げ、ツープラトンのブレーンバスターで叩きつけた。 <来ました、ふたりがかりの共同作業! 杭を打つような威力に、平田の頭は大丈夫なのか>  平田がたまらずリング外に転がり落ちる。  リンカーンに肩を叩かれた。ドンマイ、と言われているようで、胸の奥がちりちりと焦げるような気がした。 「へイ! ゴーバック、ユアコーナー!」  レフェリーが、リンカーンに抗議して、コーナーまで追い返してた。  平田がのっそりとリング内にあがってきたのは、このときだった。  やはり、ベテランだった。  平田も、キッドも、手強い。キャリアは伊達ではなかった。正直、サラ・オブライエンの手には余るだろうと、エイブラハム・リンカーンには思えた。  ガス灯時代以前の大昔……南北戦争以前からのキャリアを持つ、プロレスラーの中のプロレスラーであるリンカーンにとって、このふたりは、選手としての格以上に強靱な相手だと、痛感できた。  ヘッドロックがうまいやつ。受け身がうまいやつ。そういうやつが、本気で下克上を目指したとき、プロレスは真剣勝負以上の真剣勝負になる。  サラへ向けて、手を伸ばした。 「サラ、交替だ」  サラの表情がゆがんだ。  心を鬼にして、手をさらに突きだした。  タッグマッチは、コンビのコンビネーションが命だ。サラは平田に明らかに飲まれている。このままだと深入りするだろう。ここは、自分が出るべきだ。  相手もキッドに変わっている。  渋々、サラがタッチしてくれた。 <おおっ、ここで双方選手交代。いぶし銀が勝つかおひげの大統領が勝利するのか>  リングに出る。キッドが前に立ちはだかる。  富士額。分厚い唇。どんぐりみたいな目。そこら辺にいるような、平均的な顔立ちだ。だが、その皮膚は強靱だ。その闘志は底なしだ。なで肩に見えるのは、僧帽筋が尋常ではなく発達しているからだ。  シンプルな黒いショートタイツとレスリングシューズだけを身につけ、じりじりと距離を詰めてくる。腰を深く落とし、両掌は胸の高さでこちらへ向けている。  組みたいのか。  このあとのサラのために、まずは相手に攻めさせるべきだろう。  リンカーンは、つっと、相手の間合に足を踏み入れて見せた。  きた。タックル。  迅い。水が低いところへ流れるような、自然かつ迅速なタックル。キッドの全身が低い軌道を描いて、突っ込んでくる。  膝蹴りをあわせようとしたが、その右膝ごと両脚をクラッチされた。うまい。こっちの重心の下に頭をもぐりこませてくるのが、うまい。  両足がマットから離れた。水車落とし。首をすくめて両肩で受け身を取る。 <痛烈! 水車落とし〜っ!> <リンカーン選手、受け身はきちんと取ったようですが、大丈夫でしょうか>  キッドは、両脚を離さず、そのままリンカーンをうつ伏せにしてくる。ボストンクラブ。  背筋のバネを活かしてリンカーンはキッドを払いのけた。キッドは素直に、前のめりに転がった。  リンカーンは起き上がり、キッドの右腕をとり、左腕と両脚を絡みつかせる。閂みたいにキッドの右腕の内側に挟み付けた左腕と、両脚でのフックでキッドの右肘を圧迫してやる――キーロックだ。  キッドが、でんぐり返りしてキーロックを逃れる。つづけて腕十字を狙ったが、それはキッドにいなされた。  キッドの右手が両脚の間に滑り込んできた。ボディスラムだ。投げられた。  起こされ、ヘッドロックからの腰投げ。立たされ、またヘッドロック。  リンカーンはバックドロップを狙うが、蛙掛けに脚をからめられ、投げにいけない。  観客がどよめいている。  自分が一方的に攻められる流れに驚いているのか、キッドの予想以上の善戦に驚いているのか。  起こされ、今度はパイルドライバー。脳天がマットにめり込む感触。  キッドがむっつりとした表情のまま、リストをなでさするアピールをして、観客に微妙な反応をさせている。  サラが手を伸ばして、タッチを求めている。レフェリーはサラが乱入しないように赤コーナー際でサラに注意している。  その間に、平田がリングに入ってきた。  平田の、エルボー。キッドのチョップ。  ふたりがかりでロープに投げられた。  思い切りロープに背面をあずけ、もとの方角へ全力で跳ね返っていく。  腹に、強烈な衝撃。キッチンシンク。キッドの膝だ。  一回転して仰向けに転がったところに、平田のセントーン。肋骨が軋み、リンカーンはのたうち回る。 <リング上は『ベテランゼンザーズ』のやりたい放題の無法地帯! おっさんふたりの独裁政権がリンカーンを苦しめております!> <ここはサラ選手のアシストを期待したいところですねぇ> <しかし、そのサラはレフェリーに阻まれ、身動きとれません。後ろ髪ならぬ前髪ひかれる思いでサラは自軍コーナーで立ち往生。あ、レフェリーがリング内のらんちき騒ぎに気がつきました>  サラの指摘でレフェリーがようやく、平田とキッドの二人がかり攻撃に気づいたらしく、リング中央へ戻ってきた。  キッドとタッチした平田がコーナーへ去って行く。  平田に立たされ、エルボー。エルボー。それから、前屈みになっているところで、右腕を平田の左腕に絡め取られた。  マッシーン風車固め――平田のフェイバリットだ。  たまらず、サラが乱入してきた。キッドがそれを迎撃する。  平田の意識が、ちょっとだけキッドのほうへ向いた。  あるかなしか、わずかな平田の隙。それにリンカーンは敏捷に反応した。  平田の左腕からすり抜けるようにフックをはずし、平田をキッドの方角へハンマースルーで投げる。ちょうどサラと打撃戦を応酬していたキッドがいる方角へ。  平田の胸板とキッドの背面がぶつかった。 <これは巧みです! リンカーンとサラがベテランふたりに交通事故で鉢合わせさせました!> <サラ選手、ほかの三人と実力的には劣りますが、やはり師匠との息はぴったりですね> <う〜ん。あうんの呼吸というやつですね、原田さん>  キッドも平田もマットに横たわる。 「へイ、サラ!」 「はい、師匠!」  サラがリンカーンに呼応し、平田をうつぶせにし、腰に右膝を押しつける。  リンカーンは、キッドをファイヤーマンズキャリーの体勢で担ぎ上げる。  リンカーンがコーナーポストに駆け上ったときには、サラは平田を変形ボーアンドアロー『バリスタ』に捕らえていた。  『バリスタ』は、強いて言えばボーアンドアローと腕十字の複合技だ。  平田の両脚を、右腕でリバースインディアンデスロックに固め、上で仰向けになった平田の腰を右膝で押しあげる。平田の顎を左脚でフックし、残った左腕で平田の右腕を抱え、腕十字気味に極めている。 <一瞬の逆転劇! 平田とキッドの油断をついて、サラがキッドをリング中央で……あれはボーアンドアローでしょうか?> <いえ、違いますねぇ。リンカーン選手も呼応して動いているようですが……>  リンカーンは、コーナーポストで、観客を見回す。  コールがはじまった。  ――Of the People!  ――By the people!!  地方の体育館だから、若干のりがよくはない。唱和のタイミングが少しずれてい入るが、観客たちは興奮の表情を隠そうともしない。みんな、今リンカーンが取っている体勢が、必殺フェイバリット『ゲティスバーグスプラッシュ』のモーションだと知っているためだ。  だが、少し、違う。サラの『バリスタ』――どうしてそんな技を編み出したのかは知らないが、完成度の高い技だ――と、このリンカーンのフェイバリットを組み合わせた必殺ツープラトン。それを、この場にいる観客たちは、初めて見ることになる。  一瞥し、サラの位置を確認し、リンカーンは、背面跳びにコーナーを蹴った。  ――For the people!!  観客の最後の唱和とリンカーンとサラのツープラトンが炸裂したのは、同時だった。 <こ……これは〜〜〜〜〜っ?> 「『ゲティスバーグ――」 「――バリスタ』ッッ!!」  肩に担いだキッドの背中を、サラが固めている平田の胸板に着地した。 「ぐわっ」 「げぶっ」  技を解くと、キッドと平田が血反吐を吐いてマットに横たわった。 <見たこともない必殺技だぁ〜〜〜〜〜〜ッ!>  フルタッティが声をからして叫んでいる。それ以上の大音声が、場内の空気をふるわせている。観客の、悲鳴のような叫びだ。  レフェリーがカウントさえせずに、手を振ってゴングを要請する。 <決まりました! これこそ『正統派師弟コンビ』の必殺ツープラトン『ゲティスバーグバリスタ』であります!> <ベテランふたりはよく頑張りました。リンカーン選手はともかく、サラ選手には課題が大きく残った試合ではありましたね> <そういうわけでお茶の間の皆さん、放送の終了が近づいて参りました。引き続きましてチャンネルはこのまま。このあとの番組は予定通り『どきっ! 混浴温泉探偵プラトンの名推理 〜あたしは男湯だけでいいのよ? 公衆便所連続殺人ルート〜』をお送りしま……え? なんですか、ADさん? カンペ? ……あ、番組中失礼いたしました、『混浴温泉探偵プラトンの名推理』は、諸般の事情により放映中止となりました。代わりに、『名曲フォトアルバム』が放映されます。美しい風景と心安らぐ音楽を二時間半、たっぷりとお楽しみください。そのあとのニュースは予定通り放映されます。それでは皆様、さようなら、さようなら〜>  こうして、島根県立格闘技専門体育館のメーンイベントは、『正統派師弟コンビ』の勝利で終わった。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  お世話になっております、山城です。  リンク先をたどってこられた方は皆様ご承知のことと思いますが、このリアクションは、追加ルール【タッグマッチ】のサンプルアクションをもとにリアクション化したものです。  シングルマッチのルールは皆様にご理解いただけた、と判断したので、3ターン目から本格的にタッグマッチを加えていきます。  あと、補足ですが、バトルロイヤルなどほかの試合形式のルール化も検討しましたが、数値判定用のルールを策定することが不可能であり、策定したにしても煩雑になりすぎるため、シングルマッチ・タッグマッチのみとさせていただこうと考えております。 (バトルロイヤルマッチのルール案があるPLさんから、ルールについてご意見・アイディアをいただければ、それはまた追って考えます。ただ、現時点での山城の判断は、バトルロイヤルの数値判定ルール化は不可能というものです)  タッグマッチは、今後、強力な《奸徒》・《災主》などと戦う際にPCさんにとって強い効果を発揮すると考えています。  皆様にお楽しみいただければ幸甚です。  それでは〜。