初期情報 No.Z023400         担当:空科志城子 「おいでよ街コン!」 ――――――――――――――――――――――――――― ●街中公園・早朝  11月のとある朝、一人の男がやってきた。影のようにひそやかに。紙の束を抱えつつ。 その日、来伊花市街中町(こいはなしまちなかちょう)の各所には、一枚の告知ポスターが貼り出された。 ――街をキレイに、おいでよ街コン【12月開催】―― ――主催:街中町ボランティア団体『お掃除隊』―― ――参加資格:雑霊退治及びお守り使用可能な方―― ●山の上神社  鳥居から社にかけての長い砂利道。その先の、広くて寂れた境内で、日焼けした肌の女が嘆いていた。 「減るがいい。過剰なものは減るがいい」  艶のある見事な上腕二頭筋を、隠すように抱きしめて。 「過剰な想いも妄執も、余計な恋情、妬心に羨望、出会う運すら減るがいい」  癖の強い長い茶髪が、強い風に巻き上げられた。うつろな瞳で立ち上がる。 「減らして消してしまうため。すべてすべて、あたくしが切り捨ててあげますわ」  長い棒状の得物を手に、ゆぅらりと立ち上がる。  《祭主》樋口一葉[ひぐち・いちよう]。ボンテージ風ビスチェにスパッツ、片袖抜いた長丈浴衣のその姿は、優に2メートルを超えていた。 ●駅前広場  告知ポスターを横目でチラチラと見やりつつ、それどころではない、と唸る少女がひとり。 「だれぞ、だれぞおらんか。山の上のでかおんな、もといっ、縁切り一葉を、退治しようという、つわものは」  鮮やかな刺繍小袖に市女笠、長い黒髪の小柄な少女は、指さした。広場の隣の小さな神社、その社務所を。 「われ、信濃の巴[ともえ]が約そうぞ。出会いの益をもたらすことを。われこそはと思うなら、薙舞神社(なぎまいじんじゃ)へ来たるがよい」  シリアスな叫びの後、ひゅるりら、と風が吹いた。  広場の隅で、掃除途中の老女がふたり、拍手した。少女の声を聞いていたのは、そのふたりだけ。 「平日昼間はこんなもんさの〜」 「巴御前[ともえごぜん]はご苦労なさっとるの〜」  巴の足元で、子猫が一匹、にゃあお、と鳴いた。 「……くっ、なぐさめなどいらぬ。そんなことより、あのでかおんなを早くなんとかせねば。町中の恋する者たちが、縁切りされてしまうではないか。ポスターのイベントさえも。  ……うう、今度は夕方頃にやるべきか」 ●商店街・お掃除隊事務所・朝  本日、お掃除隊の朝礼は、一部緊張感がみなぎっていた。 「よろしいですか、みなさん。そもそもお掃除隊とは!」  広い室内に、瑞月純子[みづき・すみこ]の声が響き渡った。  まとめ髪に地味スーツ。膝丈タイトスカートに、足元はローヒールの黒パンプス。銀縁眼鏡はややつり目の印象で、いかにも一昔前のお局さま(三十路断定)、な姿である。 「宮内庁陰陽課長野支部有志により、皆様のお役に立つことを目的とし、街をキレイにする名目で設立された《雑霊》退治用、一部清掃活動あり、なボランティア団体です」 「せつめー的な上に、ぶっちゃけ建前だの〜」  部屋の隅からの一言を、純子は見事にスルーした。 「――何かと忙しい《祀徒》のため、出会いの場を提供せんと昨年より立ち上がり、街ぐるみの大規模合コン、街コンを開催するに至りました」 「ものは言いよう、使いよう〜」  再び聞こえた声を、純子はまたも華麗に黙殺した! 「……参加者が《祀徒》であるため、交流を深める手段は《雑霊》退治となります。そして手段が目的に勝ることがないよう、専用アイテムをご用意しております。いわく、縁結び神社の恋守り。瑞月神社で大人気、絶賛好評販売中」  言いつつ、純子は、手にした赤いお守りを掲げた。すると。 「強制らぶも、らぶのうち〜♪」 「強制はんたーい、やっぱそこはナチュラルにー」  歌うような声の後、眠たげな青年の声が異を唱えた。  三度目の合いの手に、純子はフフフ、と笑ってみせた。 「アイテム効果につきましては、未だ独身な我らが代表、瑞月純生[みづき・すみお]が実演いたします。さあ、ご覧あれ」  瞬間、部屋の隅で、つぶれた蛙のような悲鳴が上がった。床に転がる純生の背には、巫女装束の女の膝が三人分。  純子は素早く歩み寄り、お守りの中身を突きつけた。純生がそれを見たことを確認し、その目を巫女のひとり、涼宮松藤[すずみや・まつふじ]に向けさせる。  そして純生は――。 「……あぁ、松藤さんっ、オレはあなたに出会うために生まれてきましたっ。好きです、愛してますっ、その真っ白な髪も、皺のひとつひとつさえもが、オレの胸を高鳴らせるのですっ。どうか、オレにあなたの笑顔を見せてください。それだけでオレはこの世で一番幸せな男になれるっ」  巫女装束の涼宮三姉妹は、街中町名物、お守り売り場の看板娘たち――平均年齢還暦プラスアルファ――である。  転がったまま、熱っぽい視線でうっとりと松藤に語りかける純生の姿を手で示し、純子はにっこりと営業スマイル。 「初めて会う人と行う、共同作業の《雑霊》退治。ちょっぴりドキドキ、ハラハラして、吊り橋効果も抜群です。好みのタイプがいなくても大丈夫。お守り効果で、恋する気持ちダケでも味わえます。他人に使った場合は約30分、自分に使った場合は1時間弱と、安心の時間制限付き。効果後の行動等は個人差がありますので、不安が残る方は」  純子はパン、と手拍子一つ。巫女たちが、事務所備品の梱包用ビニールテープを手に、純生をぐるぐる巻きの簀巻きにした。口には当然のように、ガムテープ。素早い。 「ううっ、うううー?」 「当事務所にて、時間切れまで保護する用意がございます。遠慮なく、お気軽に、お掃除隊へご依頼ください」  きれいにまとめた純子に、簀巻きに腰かけた巫女たちが順繰りに言った。 「募集練習が、すり替わっとるの〜」 「依頼募って、どうするつもりかの〜」 「お局も独り身なのに、ほんに世話好きだの〜」  純子はハっと我に返って、反論した。 「気がついた時点で指摘してくださいっ。そのために来ていただいたんですよっ。もう、なんでみんな、縁談やら結納やらお見合いやらで引退なのよっ。人手不足で、ホント冗談じゃないんだからっ。あと、お局ゆーなぁっ」 ●街中公園他各所・早朝  くたびれた様子の男が紙束とともに再訪し、去った後。  ポスターは、一枚余計に増えていた。 ――『お掃除隊』スタッフ募集のお知らせ―― ――仕事内容:街コン企画や町中清掃、他―― ――駅前商店街、事務所・瑞月純子まで♪―― ●瑞月神社・深夜  ポスターを見て、楽しげに笑う人影ひとつ。  金の巻き毛にゆったりワンピの後ろ姿は、半透明。 「すみちゃんとー、ともちゃん。頑張ってくれるかなぁ。  ともちゃんは、いっちゃんの方にかかりきりになっちゃうかな。  どっちでもいっか。みんなみんな、恋してくれるといいなぁ」 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  はじめまして。こんにちは。マスターとして参加させていただくこととなりました、空科志城子(そらしな・しきこ)と申します。  アイテム使用で、恋愛状態を疑似体験しちゃいましょう、という、ドキワクハラヒェェ〜な恋愛系ストーリーです。  もれなく雑霊退治がついてきますが、恋に故意にドキドキしたり、筋肉にワクワクしたり、少女の主張にハラハラしたり、お守り効果にヒェェ〜な事態になったり、いろいろな楽しみ方が可能となっております。どの道を逝くも、もとい、辿るのも、参加者のみなさま次第でございます♪  できれば、目指せらぶらぶ♪ な方向で。らぶらぶは重要です。らぶこめは正義です。らんだむはお楽しみです。  なお、お守り効果に男女の別はありませんのでご注意を。 ■シナリオの目安 危険度:★ 対応人数:★★ キーワード:「疑似恋愛体験」「勝手にふぉーりんらぶ」「結婚運上昇の祟り」「薔薇も百合も恋の内」 ■関連行動選択肢 A033400 「お守りを買って、街コンに参加」 ※備考:お守りは使用前提。使用するタイミングを指定したい場合、あるいはまったく使いたくない場合は、アクションにて一言お願いします。なにもない場合は、どんな場面で使用状態になっても、恨まないでクダサイ。なお、お守りはターンを越えて持ち越すことはできません。 A033401 「巴または一葉に会いに行く」 ※備考:巴は薙舞神社、一葉は山の上神社にいます。なお、出会いの益とは、出会い運上昇のご利益です。 A033402 「お掃除隊に入隊希望」 ※備考:制服は基本、白い着物と赤袴。男性大歓迎。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――