初期情報 No.Z013300          担当:高橋一希 「その《霊験》を求めて」 ―――――――――――――――――――――――――――  霊子エネルギー研究所にその手紙が寄せられたのは、丁度研究が行き詰まっていた時の事だった。  差出人は不明ながら、手紙の内容は「任意の物体を作り出す《霊験》を持つ《祭主》が居る」というもの。  その《祭主》の名は平賀源内[ひらが・げんない]。  医者、発明家、画家等々として知られた人物である。  彼は今、茨城県のつくば市に住んでいるという。  もし彼の力を借りる事が出来たならば、研究に光明を見いだすことが出来るはずだ。  そこで“あなた”に依頼が舞い込んだ。 「平賀源内を、この研究所に連れてきて欲しい。無理ならばせめて《霊験》だけでも借り受けてきて欲しい」と。  かくして“あなた”はつくばへ向かう事となったのだが――。  つくばについて早々、“あなた”は事故に遭遇した。  目前には横転した車。壊れたビル。そのがれきの下敷きになり呻く青年。アスファルトは朱に染まっている。  周囲に集まった人々はその惨事におろおろするばかり。  怪我人を助けるにも群がる人の群れを掻き分け進むのは中々な苦労が伴う事だろう。  だが――。 「退きなさい」  一喝と共に人垣が割れた。  声の方には鋭い視線で周囲を制する壮年男性の姿。  黒の、まるで軍服を思わせる衣装に、シンプルな白衣のコントラストが妙に印象に残る。  彼は白衣をはためかせ、事故現場の前に仁王立ちし、そして手を翳す。  途端に金色の光が溢れ、彼の右腕に重機を思わせる巨大なアームが現れた。  大きさもかなりのもので、真っ当に考えれば人間が身につける事など、ましてや操る事など不可能なシロモノだ。  しかし、現れたアームを器用に操り、彼はがれきをどけていく。  怪我人の青年を救出した所で彼はアームを放り出すと、懐から取り出した針と糸を手にこう告げた。 「少し痛むが我慢しなさい」  彼は怪我人の傷を大雑把に縫い合わせる。 「あ、あれ? 動ける……?」  先ほどまで痛みに呻いていた青年は、自分の傷があった場所をまじまじと見つめる。先ほどの怪我は冗談のように塞がり、後にはべったりとこびりついた血の跡のみ。  しかし壮年男性は鋭い視線を投げかけこう告げた。 「ただ傷を軽く塞いだだけだ。念のため病院に行きなさい。別に君の為じゃない。君が怪我を悪化させて、私の手当が悪かったと言われたら困る、というそれだけの話だ。分かったらさっさと行きなさい」  そうして青年を病院へと追い飛ばした所で、壮年男性はぐるりと“あなた”の方を向く。 「それで――見ない顔だがきみは……?」  “あなた”が平賀源内を訊ねに来たことを答えると、渋々ながらと言った調子で彼はこう告げた。 「……私がきみの探す平賀源内だ。ここでは通行人の邪魔になってしまうだろう。私の家に来るといい」  源内に連れられやってきた場所は小さな古民家だった。  周囲の街並みも古い雰囲気を残しており、研究都市と比べるとあまりのギャップに驚く事だろう。  古民家の内部はかなり散らかっていた。何に使うのか分からない機材や、人体模型など様々な物品が所狭しと並んでいる。それでも埃が残っていないあたり、掃除はされているらしい。 「ただいま、早乙女君」  白衣を脱ぎ捨てながら源内が声をかける。相手と思しき少年は、持っていた箒をその場に置くとトコトコとこちらへやってきた。 「あ、おかえりなさいませ、先生。そちらの方は……?」 「客だよ」  その小学生くらいの少年、早乙女省吾[さおとめ・しょうご]は“あなた”の姿を見ると丁寧に頭を下げてみせる。 「はじめまして。先生の助手をしている早乙女省吾と申します」  そしてぽん、と手を打ち合わせると「そうだ。お茶をお出ししなければ」とぱたぱたと家の台所へと駆け込む。  源内に席をすすめられ、早乙女から差し出された湯飲みを手に“あなた”は今日この場にやってきた理由を語る。  次第に源内の眉根に深い皺が刻まれ、そして聞き終わるなり彼は大きなため息と共にこう告げた。 「確かに私は君の言うような《霊験》を持っている」  先ほどの事故現場でアームを作り出した《霊験》がそれにあたるらしい。  確かにあの時、重機を思わせるあのアームは突如として彼の右腕に現れた。あれが「任意の物体を作り出す《霊験》の効果」だったのだろう。 「しかし、残念だが私はきみ達に力を貸す気はない。とっとと帰りなさい。私は組織に属する事なく自分の自由に生きたいのだ」 「先生、ですが折角来て下さったんですし……」  取りつく島もなし、といった源内の言い分に、早乙女が抗議する。だが源内は意外な事を言いだした。 「……と言ったところで、簡単に帰る気などどうせないのだろう?」  彼も、ただ手ぶらで帰すわけには、と思ったのかも知れない。 「きみがどうしてもというなら……きみがここで暫くの間働き、相応の働きぶりをみせてくれたら私の《霊験》を貸してあげよう」  源内本人を霊子エネルギー研究所に連れていくのは難しいかも知れない。それでも彼は「暫くの間」と言った。ここで働くうちに説得するチャンスもあるかも知れない。  それが無理でも彼の言を信じるならば《霊験》だけでも借りるという目的は達せられるだろう。  だが、働きぶりという以上、何らかの依頼があるのは確かだ。果たして彼の依頼とは? 「今回頼みたいのは、とある廃診療所に現れる《雑霊》達の退治だ」  源内曰く、以前は肝試し等によく使われていたが、最近では《雑霊》が現れるようになり、流石に人が寄りつかなくなったのだという。 「因みに《雑霊》は女性の姿をしたものが多い。それも、肉体が欠損した状態のものが」  手足が無い、首が無い、目が無い、等々。  女性型の《雑霊》達は人を見かけると、欠損した肉体を求めようと襲ってくるらしい。放置しておけば市民に被害が出る可能性が高い。だからこそなるべく早い対処が必要なのだと源内は語った。 「それから、もう一つ条件がある。早乙女君を連れて行くように」 「え? 僕ですか?」  突如話を振られた早乙女は驚いたように顔を上げた。 「私は現地には行かないが、君の仕事ぶりは早乙女君が見てくれる。なお、早乙女君は《祀徒》ではない。ただの一般人だ。怪我などしないようどうかくれぐれも気をつけて扱うように」 「え、えっと、宜しくお願いします」  深々ぺこりと頭を下げる早乙女少年。  かくして少々面倒な仕事を押しつけられつつも《霊験》を借りる目処はついた。  ならばあとは依頼を片付けるのみ、だ。 「結果が出せるよう、精々頑張るといい」  と源内に見送りの言葉をかけられ、“あなた”は早乙女少年と共に源内宅を後にしたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めまして。高橋一希と申します。  このシナリオは《祭主》平賀源内とその《霊験》に関わるお話になりそうです。  それでは皆様のご参加をお待ちいたしております。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★ キーワード:「マッドサイエンス?」「ほんのり猟奇」「おっさん」 ■関連行動選択肢 A023300 「《雑霊》退治に向かう」 ※備考:診療所の《雑霊》退治の他、早乙女少年のお世話をしたりします。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――