初期情報 No.Z002301        担当:はなみずき頼 「光圀の好奇心」 ―――――――――――――――――――――――――――  少女は頬に落ちかかる豊かな黒髪を耳にかけながら、物憂げにため息をついた。 「何故こんな時に限って……」  右手に握られた赤ペンがミシリと音をたてる。その勢いのまま、日焼けした畳の上に広げた新聞を破かんばかりの勢いで、バンバン叩いて八つ当たりする。 「あらあら、光圀様……どうなさったんです?」  少女――の姿をした、水戸光圀[みと・みつくに]の元へ、光圀の居候先である猟幽会の事務員の榎田忍[えのきだ・しのぶ]がお茶とお菓子を持って現れた。 「忍殿! 聞いとくれよー!!」 ◆     ◆     ◆  榎田から差し出された渋い番茶をすすり、なんとか平常心を取り戻す。 「どうしたも、こうしたもないよ……あたしの大好きな番組がかぶってやがんだよ!」  さきほど見ていた新聞を榎田に突き出す。 「ほら、ここだよ! 20時からの“8代目は暴れん坊〜大奥に隠された埋蔵金〜スペシャル”と21時からの“平原の7人〜花のお江戸は火事と喧嘩ばかり〜”の2つ!」  また興奮がぶり返してきた光圀は、ベシベシと赤ペンで紙面を叩く。 「あら、まぁ……困りましたわね」  たいして感銘を受けた風でもなく、榎田はさらりとかわす。 「どっちも録画しときたいし、どっちもリアルタイムで見たいんだよ〜!」  娘盛りの美少女が時代劇について、真剣に身悶える姿は…………残念なような、微笑ましいような……。 「仕方ないですねぇ。うち(猟幽会)の支部にあるテレビは1台だけで、2番組同時録画もできませんし。最近は《雑霊》もよく邪魔してきますもの」  光圀は整った眉を寄せ、やれやれと首を振りながら芋羊羹を口に運ぶ。 「流れてきた情報によると、《雑霊》だけじゃなく《災主》や《奸徒》の動きも活発化しそうだとかで、忙しくなりそうですわ」  今度は険しく眉を寄せて、芋羊羹を刺していた爪楊枝に歯を立てる。 「それだよ! この国を荒らすなんてふざけたマネするなんて……血迷った話じゃぁないかい!?」  怒りのやり場をちゃぶ台に叩きつける。 「迷ってるって言えば……迷ってるんですけどね」  わずかばかりにこぼれた番茶を拭きながら、榎田も困ったように眉をよせる。 「うち(猟幽会)の支部は設備が抜群に整ってるわけでもなく、特別に大きな権限があるわけでもありませんしね……テレビもここにある1台だけですし」  西日の入る畳張りの6畳間は、猟幽会職員の休憩所兼食堂兼娯楽室兼仮眠室。設備の小ささに泣けてくる。 「そーいやぁさ、正宗殿が武器を造りに出るらしいじゃないか。何かアテはあんのかい?」  どこか落ち着かない目で榎田の顔色をうかがい見る光圀。 「まだ未確認ですが、四国の辺りに玉鋼の材料になるような物が出たとか、出ないとか……。光圀様は何かご存知ありませんか?」  光圀は無言で首を振る。 「ドラマじゃ諸国漫遊してるみたいだけどさ、あたしが出歩いたなんて地元か江戸くらいなもんで、窮屈な暮らしってもんよ。そりゃあ、地元じゃそれなりに遊びはしたけどね」 「んもぅ! どこの不良ですか……あ、そろそろ時間ですわよ」  手垢のついたリモコンでテレビのスイッチを入れる。光圀がモデルになったドラマの再放送の時間だ。 「DVDもいいけど、このコマーシャルが入るじらしっぷりがいいねぇ!」  先程までの不機嫌もどこかに吹っ飛ばして、きちんとテレビに向き直る。 「いいなぁ……あたしにもお付きの2人組とか、お風呂好きなクノイチとか、風車投げてくれる忍者とかいたらなぁ」  画面を見つめながら、光圀は誰ともなくつぶやいた。――その時、画面がグニャリと歪んだ。 「うらめしぃ……う〜ら〜めしぃ〜〜……なんだか分からないけどうらめしぃ〜〜〜」  すでにテレビには水戸のご老公の姿も映らず、モヤモヤしたガイコツが映り、変なエコーのかかった声しかしなくなった。 「あら……《雑霊》ですわね。こんなに濃く出てきてるなら再開まで時間がかかりそうですわ」  ふと、横の光圀を見る。 「あらあら! まぁまぁ!」  拳をかたく握り、光圀はすっくと立ち上がった。 「あたしゃ正宗殿と一緒に旅に出るよっ! 堪忍袋の緒も限界さね!!」  古く軋む床を踏み鳴らしながら、光圀は猟幽会の支部長(の、ような存在の)鳥谷進次郎[とりたに・しんじろう]の元へ向かった。 「背中を押したのは時代劇を邪魔された怒りなのかしら? それとも…………」  《雑霊》がうめき続けるテレビを消して、榎田も立ち上がる。 「どちらにせよ、有事に立ち上がるお姿ってのは、男女問わず素敵ですわね♪」 ◆     ◆     ◆  深夜、書庫のすみで何やら細工をしている男の姿があった。 「正宗さん、どうしたんですか?」  鍛えられた筋肉の背中に、鳥谷が声をかける。そこには刃物を手にした、刀鍛冶・初代正宗[まさむね]がいた。 「みっちゃん(光圀)も一緒に旅するってゆーからさ、ちょっとソレっぽい物を作ったげようと思ってね。いいでしょ〜〜」  イタズラっぽく笑う正宗の手には、ドラマのご老公が持つような杖が握られていた。 「これは……足場の悪い所でも安心そうですねー」  のんびりとした笑顔を見せる鳥谷に、正宗が別の意味の笑顔を向ける。 「分かってるんだか、分かってないんだか……ま、できるなら楽しい旅にしたいもんよね」 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めまして。もしくはご無沙汰しております。 はなみずき頼です。  今回もマスターとして参加させていただく事になりました。  このシナリオのメイン・キーワードは「刀」です。  興味のある方はどしどしご参加くださいませ。  四国の旨いもの情報や、名物情報なんかがあると光圀が喜びます。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★ キーワード:「日本刀」「ドタバタ」「判定:ゆるめ」 ■関連選択肢 A012300 「正宗たちと刀造りの旅に出る」 ※備考:刀を造るために情報や材料を集めたり、光圀と美味しい物を食べたりします。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――