初期情報 No.Z002300        担当:はなみずき頼 「正宗の憂鬱」 ―――――――――――――――――――――――――――  薄暗い美術館の一角で“彼”はガラスケースの中に収納されている刀をじっと見ていた。 「これも……違う…………」  しばらく刀を睨みつけ、諦めたように目を閉じる。 「自業自得ってやつかしらねぇ……」  そう呟いてガラスケースに背を向けた時、見回りの警備員と目があった。 「で……でで……出たぁぁぁぁ!!」  転がるようにして廊下を逃げていく警備員。 「あら、失敗! アタシったら半透明のまんまじゃな〜い! ゴメンなさいねぇ〜〜」  逃げる警備員の背中にそう伝え、彼はふっ……と姿を消した。      ◆     ◆     ◆  猟幽会のとある支部。やや古びたビルの中で、支部長の鳥谷進次郎[とりたに・しんじろう]は情けない顔をしていた。 「困ったなぁ……」  ろくに手入れをしていない、年のわりに多い白髪の混じる頭を頻繁にかき回す。 「んな事、急に言われたって……僕にどうにかできるわけないじゃないですか〜〜! 僕はただの超常現象マニアなだけですよ! なのに武器の調達って無理難題すぎ……あっ! ちょっと!? 何が《雑霊》が邪魔してるって…………切られた……」  ガックリと肩を落として、受話器を置く。 「本部は相変わらずですね」  事務職を担当している榎田忍[えのきだ・しのぶ]が、鳥谷の前にお茶を置いてくれる。 「なんでも、霊力が備わった武器を集めろってことらしいんですよ。それがあれば一般人でも、《雑霊》退治できますし。《霊器》といかないまでも、なんとかその場をしのげる物はないかー!? って。そんなオカルトアイテムがほいほいあるわけないってのに……」  鳥谷は愛読書である『月刊ヌゥ』と『私も知らない世界』の山に頭を突っ込んで深呼吸した。――このインクの匂いが疲れた心を癒してくれるような気がするからだ。 「あっらぁ〜〜鳥谷ちゃーん、どうしちゃったのぉ落ち込んでるぅ〜〜?」  振り返った先には、美術館の幽霊が立っていた。美術館にいた時よりも色は濃い。……つーか、個性も濃い。 「あ、正宗[まさむね]さん……お帰りなさい。収穫はありましたか?」  正宗と呼ばれた幽霊は、鳥谷の前のパイプ椅子に座りその逞しい足を組んだ。 「ン、もぉーサイテーよぉ! かなりアタシのに近かったンだけどさぁ〜、よーく見たら、アタシの弟子の義弘に練習ってゆってぇ〜アタシの真似して打たせたやつに、誰かが勝手にアタシの銘を入れてやがンのよぅ!」  鳥谷は苦笑をするしかなかった。  ある日、フラリと現れたこの幽霊は、自分を 『アタシ刀鍛冶の初代・正宗。しばらく世話になるわ』  と、自己紹介したものの……鳥谷の想像する正宗とは随分とかけ離れていた。  身長は180センチをゆうに超え、短く刈られた髪や、黒いタンクトップからはみ出す隆々とした筋肉はプロレスラーや、アメフトの選手を思わせるそれであったし、迷彩のカーゴパンツに包まれた脚も見るからに鍛えられた物だった。  ――しかし。口から発せられる言葉はおネェそのものだったし、所作のどこかしこに女らしさがかいま見える。特に胸元に光る、オパールのような……それよりももっと不思議な輝きを放つペンダントが、アーミーな服装に違和感を与えている。  鳥谷はなんとか慣れてきた……つもりだ。でも、疲れてる時に、これはキツい。 「そうだ支部長! 正宗さんにさっきの事、ご相談なさってみてはいかがです?」  面白そうに観戦していた榎田が声をかける。 「あ! そっか!!」  ここで鳥谷が積極的に正宗ににじり寄る。 「ちょっ……なによぅ! アタシ、もっと若くて可愛い子か、イケマッチョが好きなンだからぁ〜」 「そんなんじゃありませんよ!! 実は〜かくかくしかじかで〜〜武器が必要なんですよ、なんとかなりませんか?」  正宗はガラリと雰囲気を変えて、真面目な顔で考えこむ。 「いくつかの問題をクリアできれば……なんとかできるかもしれないわね」 「問題?」  正宗は足を組み替えて、唇に指を当てる。 「まず1つは、今の時代に玉鋼が十分に手に入るかどうか。個人的な希望としては、火力もガスとかじゃなくて炭が欲しいわ。 2つめ。アタシの体って不安定じゃない? そうなると鎚をふるえない可能性も出てくるわけよねぇ」  しばし沈黙が流れる。 「難しい……ですかね?」  おどおどと、鳥谷が上目遣いで正宗を見る。 「しょぼくれた中年が上目遣いすンじゃないわよ! 打ち手は《祀徒》から有望そうなのを鍛えてもいいかもしンないし、今でも刀鍛冶は居るわけだから、材料も探せばあるンじゃないの?」  地味な中年の顔がパァ! っと明るくなる。 「そうですね! じゃあ、調べてみます!! あと打ち手の募集もしてみますね!!」  バサバサと机の上の物をひっくり返しながら、転がるようにして事務室から出ていく鳥谷。 「あの子……いっつもあぁなの?」  床に落ちた本を拾い、机の上を片付ける榎田がクスクスと笑いながら答える。 「そうですねぇ……たぶん、今からお気に入りの資料室にこもってしばらく出て来られませんよ」  正宗は胸元のペンダントをいじりながら、ふ……とため息をついた。 「アタシだって刀が打ちたいのよ……ちゃんと胸はってアタシの自信作だ!! って言えるようなやつを……さ」 ◆     ◆     ◆ 「ふふ〜〜ん……なんだいなんだい? なんか面白そうな話になってるじゃない」  サラリとした黒髪の、セーラー服の美少女が事務室を盗み見る。 「いいなぁーあたしも旅とかしてみたいもんさね」  無造作に黒糖まんじゅうを口に放り込みながら、『全国グルメマップ』を眺める。 「動いてみるのも……面白いかもしんないねぇ。正宗殿とは気も合うしさ」  そう言って笑うと、少女はフイッと姿を消した。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めまして。もしくはご無沙汰しております。  はなみずき頼です。  今回もマスターとして参加させていただく事になりました。  このシナリオのメイン・キーワードは「刀」です。  興味のある方はどしどしご参加くださいませ。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★ キーワード:「日本刀」「ドタバタ」「判定:ゆるめ」 ■関連行動選択肢 A012300 「正宗たちと刀造りの旅に出る」 ※備考:刀を造るために材料を集めたり、刀を打つために正宗から指導を受けたりします。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――