初期情報 No.Z002200           担当:河瀬圭 「首都近郊朝6時」 ―――――――――――――――――――――――――――  ジョギングの為の30分が取れるときに限られるのだが、その時間に考え事をするというのが、AGAT(Anti−Ghost Assault Team)に所属する守島衛一[もりしま・えいいち]にとって習い性になっていた。  白が混ざる黒い短髪、やや大柄で恰幅の良い体格、はっきりした顎とぎょろりとした大きな目が印象的でもあり、また威圧的でもあった。  手足は連動する機械のように無駄なく同じ動作を繰り返す。覚えたフォームは意識せずともその通りに動く。  自宅周辺をジョギングコースとしているが、ほどよく日陰があり交通量もさほど多くないのはまずまず良かったが、多少アップダウンがあるのが慣れるまでやや辛かった。  だが、慣れた今ならば一定の強度を越えない運動であり、それは脳の働きを妨げない。  考え事の内容は、例えば次に休暇をもらえたらカメラを持って何処かへ出掛けようとか、こころゆくまで惰眠を貪ろうとか、あるいは最近の若者はなっとらん的な愚痴だったりするが、今日は目下の彼の懸案について、連続する窃盗事件(うち一件強盗致傷)とその対処だった。  一連の事件の犯人は《奸徒》と目されている。  というのも状況があまりに不自然だからだ。  まず、目撃者がただ一件を除いて居ない。監視カメラにその姿がしっかりとらえられているにも関わらずだ。  その一件だけの目撃者は大怪我を負って入院中で、事情を訊けるほどに回復するにはまだまだ時間がかかりそうだという連絡を受けている。  犯行を見落とした警備員の目が節穴だったのではと最初はそう判断されたが、同じ事例が何度も繰り返されてはそこに何ぞやのからくり、つまり《奸徒》の《霊験》という線が濃くなった。  ただ、そのような《霊験》を貸し与える《祭主》も《災主》も現在確認されていないので、今まで認知されていなかった《祭主》もしくは《災主》が出現したということが前提にはなるのだが。  もし《災主》が現れたとなると、大元である《災主》に対応するには今の規模のAGATの手に余るだろうというのが守島の、そしてAGATの見解だ。  そして盗難被害にあったものも奇妙だ。  まず現金に手をつけていない。盗まれたものは全て美術品等の、現物だ。  当然足がつきやすい。  盗品のリストは出来上がっているので、それを取引しそうな古美術商に聞き込みをすれば取引ルートは解明できそうだが、なぜ現物にこだわるのかに疑問は残る。  やはり《霊験》による何ぞやの制限であろうという予測のもと、この事件に対処する為にAGATは増員を決めた。  確かに未知の《災主》がもしこの事件の背後にいるならば、今のAGATが単独で事に当たるのは難しいのが現実だった。  それでも思い切ったことをしたものだと守島は思う。《祀徒》なら誰でもいい、とは。  そう、AGATに所属する《祀徒》のみならず《祀徒》ならば誰でも希望者を募るという決定は、それだけAGATがこの事件を重要視している証拠でもあった。  人手不足も極まれりと守島が嘆くのは、《奸徒》の悪事が絶えない現状を憂いてのものでもあるが、それ以上に彼がこのAGATの募集に応じてくれた《祀徒》と共にこの窃盗事件を担当するからである。  全く知らない人間との仕事はどうしても緊張を伴う。猫の手も借りたいのは事実なので、募集に応じてくれた《祀徒》と協力することを厭うわけではないが、面倒な事件を回されたなと正直思わなくもない。  そんな守島を慮ることもなく朝日はまぶしく降り注ぐ。気付けばジョギングコースも半分ほど消化していた。  やりがいがあると考えればいい、これも世の為人の為。そう前向きに言い聞かせてジョギングを終えて戻ったら何をしようか考える。  まずはシャワーを浴びて着替える。そして冷蔵庫で冷えているサンドイッチにコーヒー。たまにはミルクを入れて飲むのも悪くないかもしれない、最近どうも胃が荒れている自覚はある。  その後は出勤し、おそらく来ているであろう、いや来ていてほしい履歴書に目を通し、そして今後の捜査方針についての全体ブリーフィング用の資料を作る。  内容には、《奸徒》の犯行の疑いが濃いこと、監視カメラの映像の分析が必要なこと、盗品の売買ルートを解析すること、この辺りを押さえておけば今はそれでいい筈だ。  オーケイ、なら今日も世にはびこる《奸徒》を成敗するお仕事に励むとしよう。  さて、そうやって仕事へと意識を向けようとしていた守島の、その職場には確かに履歴書が2通既に届いていた。  一通は女性のものだ。  羽田ゆかり[はた・−]と署名捺印があり、職歴欄には宮内庁陰陽課とある。  グレーのスーツ姿の証明写真で分かる部分の容姿は美しい部類に入るだろう。  丁寧に書かれた文字は好感が持てる。第一次審査は通りそうな履歴書だ。  そしてもう一通の証明写真には、派手なアロハシャツを着た筋骨隆々とした男が白い歯を見せて笑っていた。  学歴欄は真っ白で職歴欄にはBC489〜BC480アギス朝スパルタ王、死亡により退位とあり、捺印欄には拇印、名前欄にはレオニダス[−]とカタカナで署名されている。  第一次審査で落とされそうな履歴書だった。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより ・今回マスターとして参加しております、河瀬と申します。ご縁があればよろしくお願いします。 ・盗品の流通ルート解明、監視カメラ映像の解析による容疑者絞り込みといったところからアクションを書いていただけるといいのではと思います。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★ キーワード:「協力」「軽い」「相性の悪いNPCたち」「レオニダスとあそぼう」 ■関連行動選択肢 A012200 「連続窃盗事件を調査する」 ※備考:どなたでも参加できます ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――