初期情報 No.Z002101         担当:竹本みかん 「《祀徒》とはかくあるべき  〜祭主向上委員会パイロット版〜」 ―――――――――――――――――――――――――――  ――福岡市、某所。  とある廃病院の前に最少人数で構成されたロケハンが撮影をし始めていた。  ライトを当てられ、マイク付きの小型カメラを向けられているのは、地元でちょっとだけ名が通っているローカルタレント。  芸名はチコ[−]。  正式表記はchikoだけど、とある局のプロデューサーから「気取ってんじゃねぇよ」と言われて渋々チコという表記にしている。名前の表記を理由に仕事がもらえないだなんてナンセンスだからだ。  大分県出身で、主にリポーターとして福岡のテレビ局で重宝されているモデル上がりだ。  胸としての膨らみが足りてない分、タンクトップにホットパンツという腕や生足を露出することで頑張っている。 「みなさん、こんばんは……。  ここは、知る人ぞ知る旧総合病院前です……。  かつてはこの地域の医療を担っていた場所でしたが、今や《雑霊》が跋扈するスポットとして、地元住民も近寄らなくなっています……。  今晩、私ことチコがこの廃病院にやってきた理由、それは――」      ◆     ◆     ◆  ――1週間前。  チコは顔なじみのローカルタレント達と共に、福岡トンコツ放送(FTB)内にある会議室で面接を受けていた。  今や全国区のタレントでモノマネでお馴染みの漫才コンビや、地元じゃ見ない日はないベテラン芸人たちまで参加していた。  そんな場所でまだまだタレントとしては駆け出しなチコは、小さくなって自分の番を待っていた。  こんな面子じゃ自分が選ばれることなんてないな、と思いつつ自分の名前が呼ばれるのをチコは待つ。するとチコの順番の前だったピン芸人が出てきた。その表情は怪訝で、今にも毒を吐きそうな様子だった。  ――いったい何を言われたのやら? そういえば面接時間が短かったかも? などと思いつつ面接会場へと足を踏み入れるチコ。 「はいはい、座って座ってぇー」 「それじゃ、まず名前はー?」 「チコと申します」  面接官は女性が2人。  長い黒髪と眼鏡が特徴的なチコよりもちょっと年上そうな女性と、ゴスロリがよく似合っているチコよりも10は年下に見える少女だった。  チコは一瞬で生じた様々な疑問を押さえつつ、面接官からの質問に答えてゆく。 「パーソナルデータはこっち把握してるから、まず率直なところを聞かせてもらいたいんだけど……」 「チコさん、あなた《祀徒》だそうですね?」 「はい……一応は……」 「《霊器》の種別は?」 「素手です」 「――で、どの程度できるの?」 「えっ……?」 「つまりねぇ、《雑霊》を駆除した経験はあるかどうか? ってことぉ」 「結果的には何度か……」 「いいねいいねー。それじゃあ、今回の番組主旨を説明させてもらうよ。今回のオーディションはこの秋から始まる新番組『祭主向上委員会』のメイン出演者を選ぶためのものなんだよね」 「ウチの番組は、この九州じゃ無駄に恐れられがちな《祭主》および《祀徒》って、こんなに頼れて親しみやすいんですよぉー、っていうのを様々な形式で視聴者の皆様にお伝えするという感じなのよねぇー」 「だから、出演者はまず《祀徒》だってことが前提。タレントとしての実力は二の次なんだよね」 「は、はぁ……」 「番組のパイロット版は、ガチの心霊スポットでの《雑霊》退治だけど……やるぅ?」 「えっと、その……私、やりますっ!」 「そりゃあ、助かる。なかなか《祀徒》で首を振ってくれた人がいなくってさぁ。たぶん、アンタに決まると思うよ」 「ありがとう……ございますぅ……」 「もちろん、チコさんよりも《祀徒》としていい人がいたらそっちになっちゃいますけどねー。  とりあえず、キープされたって思ってくれてていいですよぉー」  ――こうして、チコは『祭主向上委員会』パイロット版出演者として選ばれたのだった……。      ◆     ◆     ◆ 「――目下、《祭主》と契約中の《祀徒》としてすべき《雑霊》の排除をするためです!」  チコは緊張していた。  《雑霊》退治が恐くてとかそういうことではない。  いかにして番組を盛り上げるのかを今ひとつ掴み切れてはいなかったからだ。  ――こんなことなら、この手の仕事もやっておけばよかったなぁ。昔のバラエティー番組でやってたらしい心霊スポット巡りとか……。  照明が落され、暗視カメラでの撮影が開始される。  霊力にさらされると精密機器が誤作動する可能性があるので、機材はいずれも耐霊加工済み。この機材なら多少霊気濃度が高い場所でも撮影に支障はないそうだ。  頭に視線を捕らえるカメラを装備したチコを先頭に、カメラマンと照明を持った2人が続く。  面接の際に面接官だった黒髪女性とゴスロリ少女の2人だ。  チコは実況中継をしつつ、前へ前へと足を進める。  正面玄関から待合室へ……待合室から長い廊下を通って病棟へ……ナースステーションらしき場所を通りかかった頃――  ――ドカッ! ドカンッ! 「ひっ、ひうっ!? ……じゃ、なかったですね。今、すごい物音が……ひょっとすると……これはおそらく……《雑霊》のしわざ――」  ――ガンッ! ガガンッ! ガガガーンッ! 「――こ、これは相当気性の荒い《雑霊》のようですね。ですが、《雑霊》と分かっている以上、怯える必要はありません……物を動かせて明確には見えづらいだけですから、実体化率60%程度というところでしょうか? 私が与えられている《祀徒》としての力さえあれば――」  ――ブゥン!  突如、チコに目がけて椅子が飛んでくる。 「――トリャァーッ!!」  ――バキッ!  見事、椅子を蹴り払うチコ。 「どうやら歓迎されてないようですね。退治しに来てるわけですから、当然ですけれど……さぁさぁ、いよいよ《雑霊》の登場は近いですよぉ……」  さらに病棟を進むチコ。  しばらく物音すらなかったのだが、中庭へも出られる渡り廊下に差し掛かった頃、異変が生じた。  病棟で囲まれるような形で存在しているその中庭の中央にある噴水から、身の丈3mはあるかと思われる巨大でぼんやりと白い人型の塊が現われたのだ。  チコの頭が僅かに後ろを振り返ろうとしたが、彼女の持つプロ根性が押し止めた。 「……み、みなさんっ!  あれがこの廃病院に蔓延る《雑霊》ですっ!  実体化率80%オーバーの、ですっ!  あっ、このカメラじゃ映ってないかもでしょうから、精一杯リポートしつつ戦ってみます!  ――えっと、その……超でっかいですっ!」  多少の恐れを確実に抱きつつ、チコはリポーターとして実況を続けてみせる。  幽体は、実体化率によってカメラに映らないことがあるとチコは聞かされていた。カメラに映るようなるという目安は、およそ実体化率80%から。この大型の《雑霊》ならたぶんカメラにも映っているだろうが、そうでない可能性もある。 「あっ、《雑霊》の作った巨大な拳が私目がけて飛んできてますっ! カメラさん達を巻き込まないよう、戦いを挑んでみますっ!」  チコは《雑霊》から放たれた拳を前方へ突っ込むことで躱してみせると、そのまま噴水目がけて突っ込んで行く。彼女の頭に着けられている目線カメラは、白くぼんやりとした《雑霊》の身体をしっかりと捕らえていた。  そして次の瞬間、カメラが上下に激しく揺れ―― 「――チェストォォーッ!!」  噴水の縁を踏み台にしてチコの身体が蹴りを放ちつつ鋭く舞ったかと思うと、《雑霊》の白い巨躯のど真ん中を突き抜けた。  ――手応え……いや、足応えありっ!  チコが確信した通り、身体に大穴を空けられた《雑霊》は、その場の空気を振動させつつ霧散した。 「――やった! 倒せたっ! やりましたっ!」  一瞬、その達成感から我を忘れたチコだったが、すぐに自分の立場と役割を思い出す。 「この廃病院を支配し続けていた《雑霊》を、どうやら倒すことが出来たようです! これは私だけの力ではなく、《祭主》様から力を貸し与えられたことで成すことの出来た……えっ? あれ?」  達成感に充ちていたチコの心が一気に冷え込む。  だが、その理由をチコの目線カメラもスタッフが持っているカメラも捉えることはできなかった。  チコが固まった理由。  噴水の先から……今度は水が出る全ての穴から、白くてぼんやりとした《雑霊》が。  サイズこそ人並み程度の《雑霊》が、何体も何体も生み出され続けているからだった。  今し方倒した《雑霊》の実体化率は高かったが、いま生み出され続けている《雑霊》の実体化率はまちまちで、おそらくはその大半はレンズで捉えることができていないだろう。 「――な、なんなの、この数……いったい、どれだけの《雑霊》が出てくるの……?」  そうチコが恐怖に戦いている間も《雑霊》が無尽蔵に生み出され続け……今や、広い中庭は《雑霊》で埋め尽くされつつあった。 「こ、こんなの無理ぃ……こんなに大勢は、相手になんてできないよぉ……」  ついにチコはその場で尻餅をついてしまう。  完全に心が折れた瞬間だった……。  薄れゆく意識の中で、チコはこんな声を聞く。 「いもちゃん、この娘もう限界よ!  なんとか“交渉”(誘導)してみて!」 「ったく、しょうがねぇなぁ! やってやるよ!  ヨシコはチコの回収な!」      ◆     ◆     ◆  こうしてチコは、パイロット版『祭主向上委員会』の撮影をしくじった。  今回、チコが負った心の傷は、決して浅くない。少なくとも、パイロット版の取り直しまでに回復するかどうかは微妙なところだろう。  番組プロデューサーの小野妹子[おのの・いもこ]と放送作家の紫式部[むらさきしきぶ]ことヨシコ・クリスティーン[−・−]は、パイロット版の取り直しに際して新たな《祀徒》を複数名探さなければならなくなったのだった……。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより ・当シナリオは、ローカル番組『祭主向上委員会』に出演者やスタッフとして関わることになります。 ・現状は、福岡市某所の廃病院に巣くっている《雑霊》を退治しつつ、番組パイロット版の撮影をするのが目的です。 ・《雑霊》は主に病院中庭中央に位置する噴水から出現していますが、病棟内でも確認されています。 ■シナリオの目安 危険度:★〜★★★ 対応人数:制限無し キーワード:「ローカル番組」「《雑霊》退治」「九州」「×」 ■関連選択肢 A012100 「とあるローカル番組のパイロット版撮影に関わってみる」 備考:年齢、性別、組織等、参加にあたっての制限はありません。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――