初期情報 No.Z001300          担当:菅野紳士 「一枚の報告書」 ――――――――――――――――――――――――――― 「――なんだ、この報告書は?」 「タレコミだそうです。『宮内庁陰陽課』からの」  警察庁警備局公安第霊課のとある支部。  書類の束の整理を終えて、ようやく遅い昼食を取ろうとしていた最中。部下が持ってきた一枚の報告書に、彼は眉をひそめた。  ちなみに部下は、コンビニのサンドイッチを片手に齧りながら。  彼女の行いは今に始まったことではないので、礼儀についてとやかく言うつもりはなかった。 「なぜ宮内庁の報告が、うちに?」 「そんなの私だって知りませんよぉ。先ほど、陰陽課を名乗る人から連絡があったそうです。――なんでも現在活動中の《祭主》の中に、《災主》となる危険の高い人物がいるとか、なんとか……」 「一応聞いておくが、その情報は明確な証拠があった上でのものなんだろうな」  こめかみがぴくりと震える。 「どうですかねぇ。報告書を読む限りだと、『何となく怪しいから注意してね』的な事が、他人行儀な言い回しで長々と」  タレコミ内容をまとめた報告書を部下から無造作に受け取り、彼は軽くため息を吐いた。 「要は『《祭主》の監視を強化してくれ』という、宮内庁の通達か」  大方、宮内庁で捜査を進めていたが手詰まりとなって、こちらに丸投げしたといったところだろう。  直接、頭を下げれば組織の面子に関わる。それで形式だけの密告などという回りくどい方法でこちらに情報を流し、無理やり捜査を引き継がせようという腹なのだ。  確かに、公安第霊課の主な任務は《祭主》の監視にある。  《祀徒》の力の源である《祭主》は、人類が幽霊に対抗しえる唯一無二のパートナーであると同時に、人類を脅かす可能性を秘めた危険な存在でもあるのだ。  ひとたび《祭主》が悪事を働けば(この場合、《災主》と呼ぶのが正しい)、その被害はどんな悪霊の暴走よりも大きなものとなってしまう。  《災主》の活動を未然に防ぐため、各地にいる《祭主》を監視し、不穏な動きがないかを探るのは、公安第霊課に課せられた使命だった。 「どうします、これ? 別にまだ危険と分かったわけでもないですし、無視しちゃってもいいと思いますけど」 「いや、一応相手はあの陰陽課だからな。体裁は取り繕っておいた方がいいだろう」  日本の退魔機関は一律に対等なものとして扱われているが、これはあくまで表向きのもの。組織の規模や政府からの信頼具合には、少なからず差が存在するのだ。  宮内庁陰陽課は、陰陽寮の流れを組む、言わば退魔機関の本家。“大霊災”の後に設立された他の組織とでは、歴史の長さが違うのだ。  それゆえに政府からの信頼も厚く、政財界との繋がりも深いと噂されている。 「監査員の増員を検討するよう上に持ち掛けてくれ。宮内庁に貸しを作っておくのも悪い話ではあるまい」 「でも、監査員を増やすにしても《祀徒》が足りますかねぇ? 現状でも各地の《祭主》の監視で手一杯なのに」 「足りない分の人員は他所から募集を掛けるしかないだろうな。人手不足はどこも一緒だ。公安第霊課が指揮を取る分には、代理の監査員がいても文句は言われないだろう」 「分かりましたぁ。じゃあ本部には、監視の増員と外部からの代理監査員の募集を提出しておきますねぇ」  そう言うと、部下は手にしたサンドイッチを丸飲みにして、ぱたぱたと部屋を出て行く。  開け放ったドアはそのまま。  あれで《祀徒》でもなければ、今頃クビになっていそうなものだが……。  とは言え、今は猫の手でも借りないわけにいかないのだ。  ――それにしても。  改めて報告書を読み返し、彼は訝しげに目を細める。  ここ書かれていることは、果たして本当なのだろうか。もしこれが事実だとすれば……。 「いや、それを確かめるのが俺たちの仕事だったな。先のことを心配しても仕方がない」  報告書に上げられた《災主》の名前。  それは日本人であれば、誰もが知る偉人だったのだ。  織田信長[おだ・のぶなが]。  室町幕府を滅ぼし、戦国の世に覇を唱えた日本を代表する武将。  そして、またの名を第六天魔王。時代を変えた革命児としての名声と、残虐非道な悪名の双方で知られた人物だった。     ◆      ◆      ◆  ――数日後。  信長陣営の監査員募集の通達は、公安第霊課を通して各所へと送られた。  参加資格特になし。《祀徒》であれば誰でもOK。  ただし如何なる理由で《祭主》とのトラブルに巻き込まれたとしても、場合によっては死亡したとしても、公安第霊課は一切の責任を負いません。  《祀徒》としての使命を全うできるという者だけに強く参加をお薦めします。  そしてその知らせは、“あなた”のもとにも届けられた。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めましての方は、初めまして。お久しぶりの方は、お久しぶりです。  菅野紳士と申します。  この度、久々のマスターとして、シナリオを担当させていただくことになりました。  約1年間お付き合い、どうぞよろしくお願いします。  今回のシナリオは織田信長陣営を中心に展開する予定です。  参加PCは警察庁警備局公安第霊課の監査員および、監査員代理となって、信長陣営に加わっていただきます。  監査員代理の募集は外部でも行われているため、必ず公安第霊課に所属している必要はありません。逆に言えば、公安第霊課に所属しているから(正規の監査員だから)他より偉いという扱いにもなりませんので、好きな所属で参加いただければと思います。  信長陣営としていますが、軍事ルール(後日発表されると思います)のパートとは別物なので、特にそちらは気にせず楽しんでください。  あと、1ターン目は《雑霊》との戦闘を予定しております。その辺りを想定したアクションを掛けると良いかもしれません。  それでは、皆様の冒険が良い思い出となりますよう。  ご健闘をお祈りします。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★ キーワード:「協力」、「戦闘」、「陰謀」、「孔明の罠」 ■関連選択肢 A011300 「監査員として信長陣営に参加する」 ※備考:警察庁警備局公安第霊課に所属するPCは、こちらの行動選択肢をお選びください。 A011301 「監査員代理として信長陣営に参加する」 ※備考:警察庁警備局公安第霊課以外の所属PCは、こちらの行動選択肢をお選びください。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――