初期情報 No.Z000800          担当:山城一樹 「偉人プロレス」 ―――――――――――――――――――――――――――  大霊災によって国内の秩序が大きく変化してから、四年が経過した。《祭主》と契約し《祀徒》となった“あなた”は、『偉人プロレス』を主催するプロレス団体GGWF(グレーテスト・ゴースト・レスリング・フェデレーション)の事務所ビルを訪れた。 「ようこそ、GGWFへ」  応接室で出迎えたのは、黒髪を清楚にまとめた、知的な美女だった。シックなスーツをつけ、脚線美を同系統の寒色のストッキングに包んでいる。縁なし細身の眼鏡が、この女性の魅力を際立たせているようだった。  朱家あずさ[あやけ・あずさ]というこの女性がGGWFの代表取締役社長だった。  “あなた”が耳にした範囲では、この『偉人プロレス』というのは、一種の奉納神事として始まったものらしい。霊力を持ち《祭主》の加護と恩寵を得た《祀徒》らがその格闘技能を競い合うのを、一種の供物として行う神事だというのだ。  体重も年齢も、性別さえも無差別。幼女と壮年、少年と老婆が対決することも、そういう参加者がいれば、ありうる。すべての《祀徒》は差別されることなく、対等に戦う。両者にある差別は、強さによるものだけだ。  神事だから、興業の最後には、あずさが自ら巫女となって、地鎮の儀式を行う。それによって土地の穢れを軽減させるそうだ。霊がいるのは実際に《祭主》や《雑霊》を見て“あなた”も知っているが、神がいるのかどうかは、よく知らない。  ちなみに、世間的には、神事としての側面よりも《祀徒》同士の武術研鑽の場として『偉人プロレス』はよく知られている。儀式として注目している人物はあまりいないようだ。あずさという十代後半の才媛の巫女姿目当てで来場している観客もいるらしいが。  あずさの勧めで、対面のソファに腰掛ける。上等な紅茶の香りが応接室に満ちていて、心地よい。 「さて、“あなた”はこのたび、GGWFに参加してくれるとのことですが、参加していただくのにいくらか条件があります」  条件とはなにか、という“あなた”の問いに、あずさが指を折りながら答えた。 「ひとつ――武器の使用は一切を禁ず。ですから、このリングに参戦するなら、素手でなければなりません。原則的に《霊器》も《霊験》も、素手である必要があります。まあ、反則技は5カウントまで許されるので、兇器攻撃をする者もいますが。  ひとつ――この興業でのマッチメイクは、基本的に私がすべて組んでいます。あくまでも興業なので、観ている相手を悦ばせることが必要なので、すこしでもそうなるよう、名勝負が生まれるように私も力を尽くしているのです。もし、“あなた”が戦いたい相手がいるなら、それを私に申告してくるのは自由です。しかし、その要望が通るかどうかは、私の判断ひとつです。もし通したいなら、試合が十二分に盛り上がるようなセールスポイントを用意してください。  ひとつ――この興業で行っているのは、真剣勝負ですが、あくまで『プロレス』です。その点を、よく鑑みて試合に参加してください」  プロレスであることを鑑みる、というのがどういうことなのか。“あなた”は首をかしげた。  ドアが開き、いかにも屈強そうな男が応接室に乱入してきた。その巨漢があずさに食ってかかる。 「社長! どういうこった、どうしてこの俺のギャラが、対戦相手より安いんだ?」 「あなたにはふさわしいギャラをお支払いしたはずです。試合内容に見合った金額を」 「ふざけんな! 俺はあいつに完膚なきまでに勝利したんだぞ!! それがどうして!?」 「そう。完膚なきまでの、完全な勝利でした」 「だったら――」 「それが、どうしたのですか」 「なに?」 「あなたは対戦相手よりも明らかに格上でした。勝って当然です。その試合でただ勝った。それだけのことなのに、なにを評価する必要があるのですか」 「八百長をやれってのか?」 「八百長などと、あなたはGGWFを愚弄するつもりですか。勝てる試合を棄てて負けろなどと言っていません。なぜ、ただ勝つだけなどという能のないマネをしたのですか」 「勝って、なにがいけねえ!?」 「強者が弱者を屠った。ライオンが兎をひねり殺すのを観て、面白いのですか? それを観ている者が悦ぶとでも? むしろ客たちは、あなたに一方的にやられた対戦相手に肩入れしていました」 「なんでそんな工夫をしなくちゃいけねえ!」 「これが奉納プロレスだからです」 「プロレスだと?」 「そうです。観客が対戦相手にいっそう肩入れできるような工夫をしたのですか? あなたがやったことは、単に自分が持ってる圧倒的な暴力で相手を最短時間で倒しただけです。相手が持っている魅力を引き出して観客を悦ばせる技術――勝ち負けよりも私が評価するのは、その点です」 「俺は勝ったんだ!!」 「ただの勝利ごときをGGWFでは評価しません」 「ふざけるな!」  激怒した巨漢が拳を振り上げた。危ない、と“あなた”は思った。言いたい放題言っていたあずさがどうするのかと思ったが、巨漢の剣幕に怯えて目をつぶっている  巨漢の拳が振り下ろされることはなかった。背後から、黒ずくめのスーツ姿の男に掴まれていたからだ。黒スーツの男の肉体は均整が取れていて、コワモテの髭面はまるで彫刻のようだ。この黒スーツは、ギリシャ系らしい。 「なんだ、てめえは? 社長の犬か?」 「愛ってなぁに?」 「あン?」 「ためらわないことよ」 「ふざけんな」  もう一方の手で巨漢がギリシャ人を殴ろうとしたとき、ふたりの体が回転し、位置が入れ替わっていた。  “あなた”が見たのは、ギリシャ人が巨漢の右手をとって関節を極めている、その結果だけだった。  ギリシャ人は、巨漢の右肩越しに巨漢の右手首を取って、引っ張っている。その右腕に巨漢の左腕が引っかかっている。見ようによっては、巨漢が両腕を後方に振りかぶり、それをギリシャ人が引っ張っているようだった。肘も肩も手首も完全に詰まっている。 「はぁ。貴方の技は未熟よォン。肉体も不完全ねェン。筋肉とレスリングへの愛が足りないわ」 「う、腕が……折れ、るぅ……」 「その程度ではイデアに到達することはできないわぁ。あら、生意気(ナマ)言っちゃって、ごめんなさいね。フフ、さよなら」  バキッ。巨漢の両肩が鈍い音をたてる。悲鳴をあげながら、巨漢は、両腕をぶらぶらさせながら帰っていった。二度と、ここに戻ってくることはないだろう。  あずさが、息を整えてから頭をさげた。まだ、巨漢に殴られそうになった怖さが抜けきっていないようだ。 「み、ミスター・プラトン[−]、礼を言います」 「あらぁ、いいのよぉン。ちゃんと約束通り、いい男と会わせ――おほん……強いレスラーと戦わせてくれたら、アタシは満足だものぉ」  ギリシャ人は、その魁偉な肉体に不気味なしなを作りながら、あずさに笑いかける。このギリシャ人が、ホモのレスラーで哲学者としても高名な《祭主》――プラトンだった。  プラトンが“あなた”のほうへ視線を向けた。 「あらぁん、“あなた”も偉人プロレスに参加するのかしら?」 「ミスターが言うとおり、我がGGWFは強いレスラーを求めています」 「あら、やだ。求めてるのは強い男よォン」 「我々が求めているのは、強い《祀徒》です。性別も国籍も信条も年齢も体重も問いません」 「男のほうがアタシはいいわねぇ」 「“あなた”が参戦してくださるなら、私どもとしても喜ばしく思います。これまでのメンバーは、現在の暫定王者をのぞいて大方が観客に飽きられはじめていますから。プロレスを理解して、客を悦ばせる戦いをしてくださる方を多数求めています」  プラトンを尻目に、あずさが“あなた”に話しかけてくる。ようやく冷静さを取り戻したようだった。 「次回シリーズ『偉人杯』からは、すでにGGWFにトレーナーとして参加しているエイブラハム・リンカーン[−・−]、さらにゲスト参戦として中国拳法の開祖である達磨[だるま]祖師も参戦します。それら実力派《祭主》も交えて、GGWF最強のレスラー・格闘家を決定しようという」  リンカーンもプラトンも、生前は世間的に有名な政治家や哲学者としてだけではなく、実力派レスラーだった経歴を持っている。そのため、ふたりには徒手格闘を旨とする《祀徒》が少なくない。 「強敵と争って自らの力を高めたい、あるいは名声を高めたいという希望があるなら、参戦してもよいのではないでしょうか。《祭主》――特に、自分の契約している《祭主》と直接戦う機会、というのもそうそうあるわけではありませんし。現在、GGWFの暫定王者となっているサラ・オブライエン[−・−]もリンカーンの《祀徒》で、打倒リンカーンに燃えています」  あずさが、“あなた”に笑いかけてくる。 「もし、レスラーとして参戦するのをお望みではないなら、デスクワークや雑用としてでも構いません。リングアナウンサー、実況解説、広報や宿や会場の手配などの事務仕事なども、人手不足ですから」  あずさが眼鏡を取った。よく澄んだ、黒い瞳。 「すぐに決めろ、とは言いません。よくお考えになってからで構いません。ですが、私は、“あなた”のご参加お待ちしております」 「いい男を待ってるわよォン」  あずさの微笑は、どこか神秘的だった。プラトンは、ひとりでしなを作っている。  『偉人杯』に参加するか否かは、“あなた”次第だった。GGWFは、その門戸をいつでも開けて待っているだろう。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  はじめての方にははじめまして。常連の方には、お世話になっております。マスターの山城一樹です。  本初期情報中でもくどくどしく説明しているとおり、今作では原則数値判定で勝敗を決するプロレス興業シナリオをやります。 (プロレス以外の要素もありますが……)  『実戦』でも『格闘技』でも『八百長』でもなく『プロレス』です。しかも、山城の好みの問題で、若干オールドスクールな劇風になると思われます。  PC同士の対戦もありです。むしろ、推奨いたします。遺恨試合みたいなものとか派閥争いなど、GGWF内でのPCのバックボーンを好きに設定していただいて構いません。バックボーンに興行価値があるほうが描写されやすいです。興行価値はドラマ性と考えてもらって差し支えありません。  ただし、マッチメイクはブッカーであるNPC朱家あずさが最終的に決定しますので、要望が通らない場合もあり得ます。  本作でも、皆様のご愛顧をいただければと思います。それでは〜。 ■判定上の試合ルール 以下、シナリオ内で行うプロレスの勝敗決定に関する、シナリオ独自のルール説明です。試合参戦の場合はアクションに必ず明記ください。 ▼試合時間を序盤・中盤・終盤の三つの時間帯に分けて三本勝負で判定いたします。 ▼二本先取、あるいはKO勝ちしたほうが勝者となります。 ▼時間帯ごとの判定で数値差が10倍以上となった場合、その時点でKO判定が出ます。KO判定は、時間帯ごとに《霊験》・アシスト・戦法など、アクションによる数値補正後の霊力で判定します。 ▼時間帯ごとに、戦法を決定してアクションとして提出してください。この戦法で、あらためて数値を補正します。 戦法は三種三すくみ。 【関節技重視】、【打撃技重視】、【投げ技重視】から好きなものをひとつお選び下さい。三時間帯すべて同じ戦法でもよいですし、すべてバラバラの戦法でも構いません。   関節技>打撃技(関節技は打撃技に対して3倍の効果)   打撃技>投げ技(打撃技は投げ技に対して3倍の効果)   投げ技>関節技(投げ技は関節技に対して3倍の効果) ▼所持している霊力(《霊験》・アシストなどによる数値補正前の数字)を、上記の三つの時間帯に任意で振り分けてください。対戦相手と比較して、数値が大きい方がその時間帯の勝利者(=一本取得)となります。 ▼所持している《霊験》・アシストのうち、徒手格闘(=《霊器》が『素手』)で使用可能なものがあれば、それを好きな時間帯に振り分けることが可能です。振り分けられた《霊験》・アシストで数値補正がかかります。 ▼《霊験》の使用に制限はありませんが、使用するとルール上魂が疲れます。序盤に《霊験》を使いすぎると、スタミナ切れになることもあり得ます。 ▼使えば使うほど疲労する単発型・維持型の《霊験》は、(プロレスとしての見せ場をどこに作るかの意味も含めて)使いどころが重要になるでしょう。もちろん、使わないことも自由です。 ▼常時型の《霊験》は、自分の意志でON/OFFすることができません。必ずすべての時間帯に効果がありますが、そのぶん疲労しやすくなります。  まとめると、数値判定に関するアクションは、下記のようになります。 1、霊力を三つの時間に振り分ける 2、時間帯ごとに戦法を選択する 3、《霊験》・アシストを好きな時間帯に振り分ける ※試合の勝敗とリアクションでの描写の多寡は、必ずしも一致しません。 ■描写上試合ルール 以下は、プロレスのルールです。下記に則って、詳細なファイトスタイルを明記ください。 ▼勝敗は、フォールは3カウント、リングアウトは20カウント、KOは適宜レフェリーによる10カウント。 ▼反則は、目・金的・肛門への加撃、頭部への拳による加撃、武器使用。 ▼反則は、レフェリーの5カウント以内は許容される。ただし、悪質すぎるものは即時反則負け ▼双方合意の上でなら、デスマッチ特製ルールは認められる。金網デスマッチ、命を賭けた服毒デスマッチなど(PC同士であれば、双方合意なら認められます)ただし、試合者以外の人命や財産が脅かされるようなものは原則認められません。 ■シナリオの目安 危険度:★★ 対応人数:★★★ キーワード:「プロレス」「嗚呼、心に愛がなければ」「投・極・打」「興業」「古典的」「フェイバリットは自己申告」「数値判定重視」「神事」「18禁はアクション次第」「封印」「打撃(フィスト)か組技(ツイスト)か?」「ショーマンシップ」「レスラー扱いの偉人はみんな史実です」 ■関連行動選択肢 A010800 「『偉人杯』第一回興業に選手として参加する」 ※備考:会場は、東京都のドーム式野球場『文京ドーム』。《霊器》が『素手』のPC限定の選択肢(性別・年齢・体重による制限はありません)。初期情報「Z000800」にて公開しているシナリオ内サブルールに則って、アクションをご記入下さい。 A010801 「『偉人杯』第一回興業に選手以外で参加する」 ※備考:《霊器》などの制限はありません。奉納プロレスに試合以外で参加するのをご希望の方は、こちらの選択肢をお選び下さい。観客というのも、ありです。 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――