初期情報 No.Z000602           担当:上原聖 「二虎競食の計」 ―――――――――――――――――――――――――――  劉玄徳[りゅう・げんとく]、ラクシュミー・バーイー[−・−]、平維盛[たいら・これもり]が立てた、新しい国を作ろうとする立て看板。  公安第霊課北陸支部の管理官、小鳥遊雪江[たかなし・ゆきえ]は小さくうなった。 「それにしても……あの加賀温泉郷の《災主》がどう動くかしら」 「さあ……」  部下も首を傾げる。 「今のところ温泉郷から動く気配はありませんが、何せ《災主》、しかも狂気に駆られていると生前から評判だった人物ですから」 「ええ、何千年も前からそう噂されてきた人物ですものね。どう動いてもおかしくはないわ」  考え事をする時のくせ、万年筆を指先でくるくる回しながら、雪江は考える。 「それに、相手は気に入った人間しか《奸徒》にしない。……もちろん彼だって、自分と契約を結んだ《奸徒》のみしか部下にしないというわけではないけれど。とはいえ《災主》に従えば、魂が穢れる行為も強要されることになる……さすがの私も、《雑霊》になるのを覚悟で潜入なさいとは言えないし」  万年筆が激しく回る。 「……でも、彼もかつては皇帝と呼ばれた男だったから、国を求めはするでしょうね。そしてこの立て看板。《災主》が動き出さない訳は無い。なぜなら、国を一から作るより、できあがった国を奪う方が簡単だから」 「はい」 「劉備陣営に入り込む若手志望者に、加賀温泉郷の《災主》に気をつけろ、と言うしかないわね。動き出すことになれば、《祭主》たちにそのことを伝え、戦わせるようにしなさい」 「互いに消耗させるのですね」 「ええ。多分現状ではそれが一番だわ。もし《災主》の所に忍び込むような若手がいれば、注意して。潜入を言い訳に、《災主》に従って魂が穢れて《雑霊》になっても、労災は出ないと」 「了解しました」  ほぼ同時刻。加賀温泉郷。 「失礼します」  浴室のドアが開けられ、細い身体に目だけが異様に光を放つ青年が入ってきた。  キャッキャと響いていた若い女性たちの視線が一度にそちらを向く。だがその目はうつろだ。 「何用?」  広い浴室の真ん中で若い女性に囲まれて入浴を楽しんでいた、十歳くらいの可愛らしい顔立ちの少年が、不愉快そうに青年を見た。 「お楽しみ中の所、申し訳ありません」 「全くだよ」  再び風呂の中に入れようとする女たちの手を振り払い、少年は全裸で風呂から出てきた。 「で?」 「石川県中にこの立て看板が立っていたのでご報告を」 「看板?」  湯気の立ちこめる中、青年……かつては普通の大学生だった《奸徒》、長村和人[おさむら・かずと]は看板を読み上げた。 「今の状況を変えんと欲する者、平和な国を求める者、幽霊を倒さんとする者よ、集え! 我ら三人の《祭主》は、石川の地に、皆が笑って暮らせる国を作る。志ある者は集え! 我らと共に、平和で穏やかな国を、作ろうではないか!  来月、兼六園で皆が集まるのを待っている。   劉玄徳   ラクシュミー・バーイー   平維盛」 「つまり、こういうことだね? 三人の《祭主》が国を作ろうとしている」 「はっ。さすがは陛下」 「誉め言葉はいらない」  かつてのローマ皇帝、カリグラ[−]はそれでも満足そうに誉め言葉を受け取った。 「劉、ラクシュミー、維盛とは何者だ?」 「劉玄徳は二千年ほど前、中国の三分の一を治めた皇帝。ラクシュミーはインドでイギリスに反乱を起こした王妃、維盛は日本が源平二つに分かれて戦っていた頃の将軍の一人です」 「ふん。蛮国の皇帝に王妃に将軍か」  カリグラは不愉快そうに呟いた。 「だけど、そいつらが国を作ると?」 「はい。誰もが笑っていられる国を作るためと」 「ばかばかしい」  カリグラは一笑に付した。 「民は皇帝のためにあるんだよ。皇帝の命には全員が従わなければいけない。なぜなら、皇帝……そう、この僕は、神なのだから」  カリグラは女たちに身体をぬぐわせ、服を着せられながら和人を見上げる。 「神の命令に、君は従うよね?」 「もちろん」  和人の目が異様にぎらついた。 「うん。それじゃあ、その国を本来の持ち主……つまり僕のものにしようじゃないか」 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  どもども。初めましてもお久しぶりもこんにちは。上原聖(かみはら・せい)です。  劉備、ラクシュミー、維盛の変則トリオは、石川から《雑霊》を排除し、平和な国を作ろうとしています。  警察庁警備局公安第霊課の小鳥遊雪江管理官は、この件を重く見て、部下を送り込んで調査しようとしています。  一方《災主》カリグラは彼らの作った国を奪取せんと狙っています。  カリグラはどう動くか。三《祭主》はどう動くか。それはあなた次第かも知れません。  それでは、第1ターンも、ふぁいとぉ。うにゅ。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★★★ キーワード:「変則三国志」「へたれと王妃と貴公子」「戦闘」「協力」「判定:緩め」 ■関連選択肢 A010600 「桃園結義に参加する」 A010601 「劉備と接触する」 A010602 「ラクシュミーと接触する」 A010603 「維盛と接触する」 A010604 「公安として桃園に潜入する」 A010605 「《災主》カリグラの元へ」 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――