初期情報 No.Z000601           担当:上原聖 「すべては未来のために」 ―――――――――――――――――――――――――――  大霊災後、ほぼ全域が霊子濃度危険度レベルでLEVEL3になっている石川県金沢近郊都市。  昼間から《雑霊》がうろつき、大霊災でそれでも故郷に留まろうとした人々が、逃げ出す機会を失い、対霊設備の整った避難所で震えながら暮らしている。 「政府は……何とかしてくれるかなあ」 「無理だろうなあ……。《祀徒》が何人かいて、それでも脱出不可能なんだから……」  その言葉を、“あなた”は聞いていた。  “あなた”も《祀徒》だ。  しかし、昼間から出没する《雑霊》を倒しきるほどの霊力はまだ持っていない。  “あなた”にできることは、夜に実体化して現れる《雑霊》を施設から追い返すことくらいだった。  水と通信のインフラはかろうじて稼働しているが、避難所や医療機関などの重要設備を除き電気やガスはストップしている。  しかも、金沢市周辺は危険度LEVEL4だから、県もまともに機能してはいないだろう。  “あなた”も、かなり消耗していた。  夜は眠らず、昼でも《雑霊》が出たら叩き起こされる。  できるだけ早く市民を脱出させたい。  しかし今避難所にいる戦力では、現場を守るので精一杯なのだ。 「幽霊がまた出たぞ!」  悲鳴。逃げ出す音。  “あなた”は《霊器》を実体化させて走った。  そこには、火の玉を連れたうつむく女の幽霊、下半身のない、上半身だけで這いずる幽霊、血の足跡だけが前進してくる幽霊。幽霊のオンパレード。  《霊器》を振るい、《霊験》を使って必死に戦う。  だが、疲労が蓄積されていく。  《霊器》を実体化させることさえ困難になった。  もうダメか……?  ターン!  乾いた銃声と共に、“あなた”に噛みつこうとしていた幽霊の頭が吹っ飛んだ。 「『最も優れた、最も勇敢なる者』はここぞ! 《雑霊》ども、かかってこい!」  凛とした声が響く。  視線の先にいたのは、《霊器》であるジャマダハルを握った、黒のゴシックドレスを着た褐色の肌に銀髪の少女だった。  あれは……知っている。  日本を回って《雑霊》を狩っている《祭主》、ラクシュミー・バーイー[−・−]ではないか。ここしばらく石川に留まっていると聞くが……。  《雑霊》たちが光に吸い寄せられる羽虫のようにラクシュミーに向かう。  ラクシュミーはジャマダハルとライフルを駆使して、たった一人で、《雑霊》共を藁でも切るように倒していく。 「ほらほら、今のうちなら逃げられる」  肩を叩かれて振り向いてみれば、そこにいたのは仏像顔をした二十代くらいの男だった。親しみやすい、いるだけでほっとさせる不思議な雰囲気を持っている。 「だけど、援護を……」 「この程度なら、援護はいらないよ。あなたができるのは、避難所に《雑霊》を近づけないことだ」 「あなたは?」 「わたしは……戦闘向きじゃないので、後ろで見てることしか」  戦闘向きじゃないと言う、この《祭主》は誰だろう。  そこへ、血の滴る牙をむきだして生首が飛んできた。 「うわあ」  男が情けなく悲鳴をあげて頭を引っ込めた。おまけに避難所の階段に足を引っかけて素っ転ぶというオチまでついた。 「危な……!」  たすっ、と音がして、矢が生首を射止めた。 「ご無事ですか、劉備[りゅう・び]殿」  弓矢を持った、光源氏も男性アイドルも真っ青の美青年が、声をかけてきた。 「維盛[これもり]殿!」  劉備? 維盛?  では、この辺りで強い影響力を持っている蜀漢の皇帝劉玄徳[りゅう・げんとく]と、石川に縁のある平家の御曹司、平維盛[たいらの・これもり]なのか?  見ている間にも、ラクシュミーと維盛は協力して《雑霊》を全滅させていた。 「ああよかった。これでこの避難所から民を脱出させられますね」  にこりと、劉備が笑った。  避難所からようやく脱出し、安全な場所まで来ると、三人の《祭主》はまた石川に戻ろうとした。 「あの……ひとつ聞いていいですか」  “あなた”の声に、三人は振り返った。 「何故、ここに」 「我らは新たなる国を作ろうとしているのですよ」  維盛は男でもどきりとするような華やかな笑みを浮かべた。 「さよう。この劉備を旗頭に、石川の地に、誰もが笑って暮らせる地を作ろうと思う」 「わたしなんかが旗頭でいいんだろうかとは思うけど……」 「ええい、皇帝はしゃんとしておればよい!」  どかっとラクシュミーに殴られて、劉備が頭を押さえる。 「まあ、とにかく」  こほん、と咳払いして、維盛が続けた。 「まずはこの地から《雑霊》を追い払うため、《祀徒》を集めているんです。ほら、そこ」  示された場所には、三人が作ったのであろう立て札があった。 「もし……もし、あなたが、わたしたちと一緒に戦ってもいいというのなら……兼六園で待っている。無理だったら来なくても……」  とまた余計な事を言おうとした劉備を、再びラクシュミーがどつき倒す。 「志あれば、来るがよい。わらわたちは待っておる。そなたらをな」  一方。 「今の状況を変えんと欲する者、平和な国を求める者、幽霊を倒さんとする者よ、集え! 我ら三人の《祭主》は、石川の地に、皆が笑って暮らせる国を作る。志ある者は集え! 我らと共に、平和で穏やかな国を、作ろうではないか!  来月、兼六園で皆が集まるのを待っている。   劉玄徳   ラクシュミー・バーイー   平維盛」  この立て札が持ち込まれたのは、警察庁警備局公安第霊課の、北陸支部だった。 「これが、各地に?」  レディーススーツにショートヘアと眼鏡の似合う、いかにも切れ者、と言う雰囲気を漂わせた若い女性が、部下に目をやった。 「はい。石川県の各地に立てられています」 「小鳥遊[たかなし]管理官。これの意味する所は……」 「三人の《祭主》が、『特殊災害被災地特別措置法』を悪用して、自分たちの国を作ろうとしている」  くるん、と指先で万年筆を回して、管理官……小鳥遊雪江[たかなし・ゆきえ]警視は呟いた。  特殊災害被災地特別措置法。LEVEL4以上の地域においては「《祭主》の裁量が一部現行法に優先する」とした特別法である。 「ですが、劉玄徳と言えば人徳の人ですよ」 「例え仁の男だったとしても、一度死んでいる」  雪江は冷静に言った。 「一度死んだ人間の性格が変わるなんて事は珍しくはないわ。ましてや《祭主》の中には性別すら変わった者もいるんですもの。《災主》に変わったとしてもおかしくない。我々警察庁警備局公安第霊課は霊的存在の監視が役目よ。生前の……しかも二千年以上昔の人間の評判に惑わされないで」 「はっ」 「だけど、ラクシュミー・バーイーは、日本を回って《雑霊》を倒してきた存在。慕う《祀徒》は多いわね。平維盛もまた、外見だけでついて行く女性《祀徒》が多いと考えられる。劉備もまた慕う《祀徒》が多いでしょうし」 「どうします、管理官」 「……そうね」  二八歳の若さで北陸の霊災の全権を任されたエリート警視は、指先で万年筆を回しながら考え込んだ。 「……とりあえずは監視ね。何人か送り込んで、彼らが何を考えているのか……特に国作りがLEVEL4の地域を越えてくるかを確認。越えて、国を作ろうとした、その時は」  ぴたり、と万年筆がとまった。 「排除、しなければ」 「では、どうします」 「第霊課の若手志望者を集めて、協力すると見せかけて潜入させなさい。LEVEL4以外の土地に出向かないように。そして、いざとなれば」  雪江は一同を見回した。 「ここにいる全員の力で、三人の《祭主》を排除する」 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  どもども。初めましてもお久しぶりもこんにちは。上原聖(かみはら・せい)です。  劉備、ラクシュミー、維盛の変則トリオは、石川から《雑霊》を排除し、平和な国を作ろうとしています。  来月、兼六園で、志ある者を待っています。兼六園には桃は本来ありませんが、霊子濃度危険度レベルがLEVEL4であるために兼六園も変質して、桃の花も咲いています。  警察庁警備局公安第霊課の小鳥遊雪江管理官は、この件を重く見て、部下を送り込んで調査しようとしています。  部下となって潜入してもいいでしょう。  それでは、第1ターンも、ふぁいとぉ。うにゅ。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★★★ キーワード:「変則三国志」「へたれと王妃と貴公子」「戦闘」「協力」「判定:緩め」 ■関連行動選択肢 A010600 「桃園結義に参加する」 A010601 「劉備と接触する」 A010602 「ラクシュミーと接触する」 A010603 「維盛と接触する」 A010604 「公安として桃園に潜入する」 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、本サイトを参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――