初期情報 No.Z000600           担当:上原聖 「桃園結……義?」 ―――――――――――――――――――――――――――  大霊災によって、北陸も大打撃を受けた。  特にダメージが大きかったのは石川県。  あちこちに《祭壇》が開き、幽霊はお早うからお休みまで各地を闊歩し、一般市民は逃げだし、《祀徒》は幽霊退治にやってくる、そんな地域。  中でも日本政府が制定した「霊子濃度危険度レベル」でLEVEL4指定を受けた金沢市以南では、今なお脱出し損ねた一般市民が身を寄せ合って逃げ出す機会を狙っていた。  そんな金沢市。  危険地帯で、立て札を前にため息をつく男。  仏像を思わせる、人の良さそうな二十代前半の男だ。身体は鍛えられているが、なんせ顔が鷹に狙われたシマリスに見えるほどおどおどとしていて、しかしそのくせ親しみやすく十年来の友達に会ったように思わせる雰囲気、果たしてこいつ一体何者だろう。LEVEL4と国に認定された地域にいるだけで、ただものではないが。 「来て……くれるかなあ……」  男は呟いた。 「何せわたし一人じゃ何もできないしなあ……。生前は義弟たちがいて仲間がいて軍師殿がいて、それでやっとだったんだから……」  ぶつぶつうじうじと呟き続けるこの男。ますます以てただ者ではない。 「義弟たちは黄泉還って来ないし、軍師殿は別の主を見つけたと聞くし……。そうだよなあ、所詮わたし、血統だけが武器だったし、それも死んでる今となってはなあ……」  ぶつぶつ、うじうじ。 「ええい、まだ決心がつかんのか!」  ずが、と後ろから蹴られ、男はよろめいた。ついでに看板に顔をぶつけ、反射的に顔を押さえる。 「け、蹴らないで……びっくりした……」 「蹴ったダメージも大したものではないし、看板に頭を突っ込んでも痛くもないであろう!」  後ろにいたのは、幼い少女だった。  銀髪に褐色の肌、黒のゴシックドレスを身にまとった少女は、外見とは裏腹、男より遙かに威厳と闘争心に満ちていた。 「ああ、そうなんだが、生きている時の反射で、その……」 「何だその様は! 仮にも皇帝を名乗った男の言うことか!」  男は首をすくめる。 「でも、皇帝を名乗れたのも、自分では何もしていないのも同然だし……。あなたも王妃なのだから、何も私が旗頭にならなくても……」 「そなたの方が名高いからだ」 「はあ……でもろくすっぽ戦えない私が頭でいいんだろうか……」 「戦いはわらわがやる。お前は戦う必要はない。……というか、そなたの《霊験》、はっきり言って戦闘では役に立たん」 「はあ……」  男は首を竦めた。  そこに、花吹雪がちらちらと舞ってきた。 「ああ、戻ってきた」 「相変わらず演出過剰な男だのう」  花吹雪と共に現れたのは、仕立てのいいスーツを華麗に着こなし、胸に桜と梅の花を挿した、光源氏の再来かとまで思わせる美青年だった。 「とりあえず、街道沿いを中心に回って、立て札を設置して参りました。幽霊退治に来た《祀徒》が見てくれると思います」 「本当に……来るかなあ……」 「何を今更! 計画は動き出したのだ。そなたは旗頭として皇帝として、しゃんと立て! 我こそは皇帝という威厳を見せよ!」 「いえ、この方は仁君と呼ばれた方。にこにこしてくださる方がいいかと思いますよ」 「そなたも少し笑えば女性の《祀徒》が集まりそうだが」 「いえ、私は所詮敗将。重要な戦いを二つも落として、一家を滅亡に導いた男です」 「それを言うなら、わたしも戦いに負けて……」 「私の評価は私が敗れた二つの戦いで決まるんです。でも、あなたは、例え負けて逃亡しても、多くの人民に慕われた。私にはない評価です。だから私はあなたを支えます」 「よろしく……何の役にも立てないけど……」 「さて、この立て札を見て、どれだけの《祀徒》が集まってくれるか。私たちの志を受け止め、賛同してくれる者がいるか……」 「志ある者ならば必ずや現れる。わらわは信じておる。この札を見て来てくれる者がいると、確信しておる」  北陸各地に立てられた立て札には、こう書かれていた。 「今の状況を変えんと欲する者、平和な国を求める者、幽霊を倒さんとする者よ、集え! 我ら三人の《祭主》は、石川の地に、皆が笑って暮らせる国を作る。志ある者は集え! 我らと共に、平和で穏やかな国を、作ろうではないか!  来月、兼六園で皆が集まるのを待っている。   劉玄徳[りゅう・げんとく]   ラクシュミー・バーイー[−・−]   平維盛[たいらの・これもり]」  蜀漢初代皇帝劉備[りゅう・び]。  ジャーンスィーの王妃、インドのジャンヌ・ダルクと呼ばれたラクシュミー。  富士川の戦いと倶利伽羅峠の戦いで敗北を喫し、平家滅亡の原因ともなった平維盛。  この三人の《祭主》が、大霊災で滅茶苦茶になった石川の地に、新たな国を作ろうと立ち上がったのだった。 ―――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  どもども。初めましてもお久しぶりもこんにちは。上原聖(かみはら・せい)です。  劉備、ラクシュミー、維盛の変則トリオは、石川から《雑霊》を排除し、平和な国を作ろうとしています。  来月、兼六園で、志ある者を待っています。兼六園には桃は本来ありませんが、霊子濃度危険度レベルがLEVEL4であるために兼六園も変質して、桃の花も咲いています。  この桃園結義、うまくいくかどうかは参加するあなた次第です。  それでは、第1ターンも、ふぁいとぉ。うにゅ。 ■シナリオの目安 危険度:★★★ 対応人数:★★★★★ キーワード:「変則三国志」「へたれと王妃と貴公子」「戦闘」「協力」「判定:緩め」 ■関連行動選択肢 A010600 「桃園結義に参加する」 A010601 「劉備と接触する」 A010602 「ラクシュミーと接触する」 A010603 「維盛と接触する」 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――