初期情報 No.Z000501        担当:伊豆平成2号 「ヤクザとオタクとネコミミと」 ―――――――――――――――――――――――――――  鳥取県は、大霊災の被害が比較的大きかった地域である。街中にもしばしば《雑霊》が出没して人々を驚かす。  もともと過疎地域だったが、人口の半分近くは、他地域へと逃げ出していた。  もっとも、残りの半分は頑固にこの地に住み続けている。  有名な妖怪マンガ家を輩出したこの県では、もともと人と、人ならざる者との共存に寛容な気風があったのかもしれない。また、《雑霊》の方でも、ここではなぜか脅かしたりイタズラをしたりはするが、あまり凶悪な事件は起こさないようだ。  そんなこんなで、被害が大きいなりに、なんとかうまくやっていたこの地方で、三つ巴の戦いが始まろうとしていた……。      ★     ★     ★  発端は、巨大な施設の建設だった。  工事は急ピッチに進み、気がつけば、わずか半年ほどで、鳥取砂丘にピラミッドやスフィンクス、アブ・シンベル神殿遺跡などを模した建物が立ち並び始めたのである。 「何なんだ、ありゃ?」 「なんでも、東京の方の会社が、テーマパークを作ってるらしいっすよ?」 「《雑霊》だらけのこの鳥取にわざわざ? あんなエジプトっぽいテーマパークを?」  なんとも不可解な話だった。  バブル期に日本中にテーマパークが乱立したことがあったが、その多くはバブルが弾けた後は経営難となり、潰れたり、規模を縮小したりした。今さらテーマパークに参入するというだけでも、なんとも胡散臭い話である。  鳥取砂丘の景観が壊されたと嘆く者もいたが、その企業は巧妙に政治家や官僚に根回ししていたようで、反対運動など起こる暇もないうちに、そのテーマパークは完成し、オープンにこぎ着けた。  そのコンパニオンや職員は厳選された美男美女ばかり、衣装はエジプト風、アラブ風というか、女性はベリーダンスのような衣装のものが多いが、統一はされておらず、メイド服やチャイナ服や、ゴスロリなどもちらほら見かける。  しかし男女を問わず全員に、ある特徴があった。 「……あれって……ネコミミ!?」 「それに、しっぽ??」 「ピコピコ動いてる……本物だ」 「なぜネコミミ、ネコしっぽ?」  テーマパークの職員の頭にはネコミミ、尻にはネコしっぽが生えていたのだ。  それも、すべて作り物ではなく、本物の。  そのテーマパークの名は、東京ファラオランド。      ★     ★     ★  高い塀に囲まれた和風の広い屋敷で、1人の男性が池の錦鯉にエサをまいていた。年齢は50代ぐらい。白髪が目立つが、目つきは鋭い。いかにも昔かたぎといった感じの人物だった。  そこに、スーツ姿にサングラスの男が近づいて、報告する。 「組長、例の商店街の《雑霊》どもの退治、無事完了しやした」 「ご苦労じゃったの、富士見[ふじみ]」  組長と呼ばれた男は、振り向きもせず、鯉を見ながらうなずいた。 「人間じゃろうと、幽霊じゃろうと、うちのシマのカタギの衆に迷惑かけるやからは許さんけんの」 「それと……」  富士見と呼ばれた男は報告を続ける。 「組長、例のファラオランドについてですが」 「何かわかったかのう?」  組長がようやく振り返る。 「へい。支配人は江島ペルシャ[えじま・−]とかいう女ですが、どうやらそいつは名義人というだけのようです。背後には大物の《祭主》がいると前から噂でしたが、ようやくわかりやした」 「誰じゃい? その《祭主》は?」 「ネフェルティティ[−]とかいう女で」  組長はその名を知っていたようだ。 「確か、古代エジプトの王妃じゃったな。東京の方で芸能界の支配を狙って裏の世界で暗躍しとると聞いとったが。この鳥取に目ェつけよったか」 「どうやら芸能界支配は諦めて、地方に自分好みの国を作ることにしたらしいですぜ」 「ふざけおって、鳥取はうちのシマじゃあ」  その時だった。  どこから入ってきたのか、1匹の野良猫が、素早い身のこなしで、組長のすぐ近くに前に現れた。それに気づいて、組長が真っ青になる。 「げっ、ね、猫?! ね……ヘーックショイ! エーックショイ!!」  組長はとたんに大きなクシャミを連発し始める。 「なにをしとる!! ヘーックション! その野良猫を、ヘーックション! 叩き殺すんじゃ!!」 「いかん、どこから入ってきた、この……」  富士見があわてて捕まえようとするが、猫は素早く手をすり抜ける。 「ヘーックション! このっ、ヘーックション! 死にさらせっ!!」  バン! バン! バン!!  組長のクシャミにまじって、銃声がとどろく。  組長が懐から取り出した拳銃を乱射していたのだ。クシャミをしながらなので、狙いが定まらない。 「ひええ、ちょっと、組長、落ち着いて……ぎゃああああ!」  当然の結果というか、弾丸をくらったのは猫ではなく、近くにいた富士見だ。猫の方はとっくに逃げている。  銃声を聞きつけて、屋敷内から若い衆が、ドスやらチャカやら手にして庭に飛び出してきた。 「出入りかっ?」 「組長、ご無事で?」  が、彼らが目にしたのは庭の惨状。血走った眼をしてクシャミをしながら、弾丸切れの拳銃を放り出して今度はドスを抜いて振り回している組長と、血を流して倒れている男を見て、若い衆は事情を察する。 「あちゃあ、また猫か……」 「組長は、普段はとてもいい人なのに、猫を見ると、人が変わるからなぁ」 「猫毛アレルギーでクシャミが止まらなくなる体質とはいえ……猫嫌いは筋金入りやけんのう」  そんなことを話している間に、富士見がうめき声を出す。 「おい……それより救急車呼んでくれ……」 「あ、若頭、しっかりしてくだせぇ」  「組長が落ち着くまでは、俺らも近づけねえですから」  その組長は、ようやくクシャミと精神が落ち着いてきたようだった。 「……はぁ、はぁ、はぁ。……この根津組4代目組長根津公太郎[ねづ・こうたろう]の目の黒いうちは、うちのシマでは1匹たりとも、猫を生かしておかんのじゃあ! 人間に猫の耳をつける遊園地を作ったネフェルティティも許さんけんの! どんな手を使ってでも、そのふざけた遊園地をぶっ潰すんじゃあ! 富士見、若ぇ衆を集めんかい! ん? なぜ寝とるんじゃあ、富士見!」      ★     ★     ★  一方その頃。  とある集会所に、大勢の人間が集っていた。  主に異様な風体の男たちである。太った体型の男もいれば、逆にガリガリな男もいた。少数ではあるが女性の姿も見える。そしてみな、共通している独特の雰囲気をまとっていた。  一言で言えば、オタクだ。  オタクの集団である。  はたしてここは、同人誌即売会場か?  それにしては、同人誌は並んでいない。 「同志諸君、よくぞ集まってくれた」  檀上に登った、太ったオタクがマイクで言う。 「我々は、それぞれ立場は違えども、共通の目的のために手を組んだ。その目的とは、東京ファラオランドの打倒である! 今ここに、『ネコミミキャラは二次に限るオタク同盟』、略称ネコニジ同盟の結成と、戦いの開始を宣言する」 「おーっ!!」  会場のオタクたちがどよめいた。  一部のオタクが、なぜか腕をぐるぐる回してオタ芸を踊る。 「それでは、我らが同盟のリーダー、板井委員長からあいさつをどうぞ」  そう言われて、迷彩服に長髪の男が、マイクをひったくった。 「板井言うな! 俺の魂の名は、桐生院虎(きりゅういん・タイガー)だ。タイガーと呼びたまえ」  桐生院虎を自称する、本名板井八郎(いたい・はちろう)は、演説を始めた。 「我々は鳥取砂丘を失った。これは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ! 東京ファラオランドに比べ我がネコニジの戦力は30分の1以下である。にも関わらず、今日から戦い抜くことができるのは何故か! 諸君! 我がネコニジの戦争目的が正しいからだ!」  ツッコミどころ満載の演説だが、会場は大いに盛り上がる。 「そうだそうだ!」 「ネコミミは二次元に限る」 「三次のネコミミなど邪道!」 「ネコミミに対する冒涜だっ」 「つーか三次の女キモい!」 「三次は惨事!」  といった声が上がる。  要するに彼らは、二次元のネコミミキャラが大好きであって、その思い入れのあまり、東京ファラオランドが現実の人間にネコミミをつけていることが許せないのである。  普通なら個人的に気に食わないというだけで終わるところを、そのような者たちをまとめあげ、ネコニジ同盟という団体を立ち上げたのだから、この桐生院というリーダー、目的はともかく、行動力と彼らの中でのカリスマ性は、なかなかたいしたものと評価すべきだろう。  その桐生院の演説は最高潮に達した。 「県民よ立て! 萌えの心を怒りに変えて、立てよ県民! ネコニジは諸君等の力を欲しているのだ。ジーク・ネコミミ!! 」  どこかで聞いたような演説はなんとかならんものかとか、途中をすっ飛ばしたとか、坊やだからさとか、ヤボなことを言う者はここにはいない。 「ジーク・ネコミミ!」 「ジーク・ネコミミ!」  熱狂的なジーク・ネコミミコールがまき起こる。 「ネコニジ同盟ばんざーい!」  といった声も上がった。  組織に対する万歳の声は、すぐにリーダーに対する 万歳となった。 「板井、ばんざーい!」 「板井八郎、ばんざーい!」  彼らのリーダーはその声に応えるのだった。 「だから板井言うなーっ!! タイガーと呼べタイ ガーと!!」      ★     ★     ★  かくして鳥取を舞台に、東京ファラオランドと根津組とネコニジ同盟の三つ巴の戦いが始まった。  そして三勢力とも、自営の戦力強化のために、強い《祀徒》の助っ人を求めていたのだった。   ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めましての人は初めまして、お久しぶりの人はお久しぶり、伊豆平成2号です。  今回は(今回も?)、能天気なシナリオをやらせていただきます。  3つの組織のどれかに所属して戦うもよし、新たな勢力を立ち上げるもよし、ネコミミ好きな人も好きでない人も、楽しんでいってください。  あと、鳥取県の人、怒らないでね。 ■シナリオの目安 危険度:★★ 対応人数:★★★ キーワード:「戦闘」「PC対立」「ギャグ」「軽い」 ■関連選択肢 A010500 「東京ファラオランドに味方する」 ※備考:制限はありませんが、キャラの容姿の美醜によって待遇が異なる場合があります。 A010501 「東京ファラオランドと敵対する」 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――