初期情報 No.Z000500        担当:伊豆平成2号 「ネフェルティティの野望」 ――――――――――――――――――――――――――― 「この国は、どうもイマイチなのよねぇ」  露出の多い衣装を着て籐の椅子に腰かけている美女が、膝の上に乗せた猫の背中をなでながら、愚痴をこぼした。  背後から彼女にかしずくようにして、長い髪に丁寧にブラシをかけていた女性が答える。 「わかりますわ。日本のこの湿度の高さは御不快でしょうね。ネフェルティティ[−]様が生前お暮しになっていたエジプトは、乾燥した砂漠の国でしたから」 「そういうことではないの」  ネフェルティティは、すねたように言う。 「《祭主》となった身では、空気がじめじめしていようが、からっとしていようが、そういうのはあんまり関係ないから。まあ、確かにエジプトの風景は懐かしく思うけどね」  そう言って、ネフェルティティは、なでていた猫から、窓の外に広がるビル街に視線を移した。 「この都会は、ゴチャゴチャしすぎているのよ。初めて見た時は目新しいと思ったけど、見慣れてみると、そうねえ、なんていうか。一言でいえば、『美しくない』の。こんな街にいるのはやめて、どこか地方にでも、もっと私好みの美しい街を作っちゃおうかしら」 「ネフェルティティ様は、美しいものが大好きですものね」 「そうよ。いけない? 私は美しいもの、かわいいものに囲まれて暮らしたいの。ねー、アヌビスちゃん」  アヌビスちゃん、というのは、膝の上の猫のことらしい。犬頭人身の死神の名を猫につけるネーミングセンスはどうなんだと、たとえ心の中で思っていたとしても、口や表情には出さず、ネフェルティティの側近の女性は言った。 「わかっております。ですから、芸能界の支配を進めているのではありませんか」  髪をくしけずりながら、側近は言う。 「美青年、美少年、美人、美少女のタレントや歌手を擁する芸能プロダクションの社長や有力プロデューサーの大半は、すでにネフェルティティ様の強い影響力の下にあります。もうあと一押しで、この国の芸能界を完全に掌握できるでしょう。芸能界を握るということは、テレビ業界に強い圧力を持つということで、テレビを操れるということは……」 「ああ、テレビ、テレビね。そういえば、退屈ね。何か面白い番組でもやってないかしら? テレビつけてよ、ペルシャちゃん」  ネフェルティティは長くなりそうな話を遮った。 ペルシャちゃんと呼ばれた側近はやむなく、テレビのリモコンをとってスイッチを入れる。  最初の何秒か、霊障で画像が乱れていたが、すぐに街並みが映し出される。  最初はあまり興味なさげに見ていたネフェルティティだったが、不意に目を見開いた。 「なにこれ、かわいい!!」 「え……?」  側近、江島ペルシャ[えじま・−]は、猛烈に嫌な予感をおぼえた。《祭主》ネフェルティティがこんな風に目を輝かせる時はたいてい、ろくでもない展開になるのだ。  彼女が食い入るように見ている画面に目をやると 映っていたのは、秋葉原の街、そしてネコミミをつけたメイドの姿であった。 「そうよ、これよ!」 「……これって……?」  いぶかしむペルシャに、ネフェルティティは宣言した。 「芸能界の支配なんてヤメヤメ! そんなの、あんまり面白くないわ。それよりも、私、自分の理想の国を作る!」  それが、すべての発端であった。      ★     ★     ★  それからしばらくして、鳥取砂丘に突如として新たなテーマパークが建設された。  着工からわずか6ヶ月でオープンしたそのテーマパークの名は、東京ファラオランド。  鳥取は大霊災の被害が比較的大きい地域だった。でなければ、こんな急な開発の許可はおりなかったろう。また、その裏では芸能関係者の大物が政治家や官僚に働きかけたともいう。  とにかく、鳥取砂丘に、ピラミッドやスフィンクス、アブ・シンベル神殿遺跡などを模した建物が並び、園内をラクダが行き来する、エジプト風のテーマパークが出現したのだった。  そして、コンパニオンや職員は厳選された美男美女ばかり、衣装はエジプト風、アラブ風というか、女性はベリーダンスのような衣装のものが多いが、統一はされておらず、メイド服やチャイナ服や、ゴスロリなどもちらほら見かける。  しかし男女を問わず全員に、ある特徴があった。  頭にはネコミミ、尻にはネコしっぽがついているのだ。  それも、すべて作り物ではなく、本物の。 「ほほほほほ、いいわ、いいわよ。聖なる動物・猫と人間の美しき融合。これこそ、私の国! 猫の国よ!」  宮殿の最上階の一室から園内を見下ろして、ネフェルティティは哄笑した。 「テーマパークというのは、名目上のこと。あくまでも、最初の拠点の仮の姿。これから周囲にどんどん領域を拡大していくわ。鳥取市、鳥取県全域、中国地方、最終的には、日本全土を、私好みのネコミミの国にするのよ! そしてすべての美男美女をネコミミにするの!」 「はあ、しかし……それは少々難しいというか、無理ではないかと……」  テーマパークの名義上の支配人に就任した側近、江島ペルシャが弱弱しく抗議する。 「無理じゃないの! やるの! 腕の立つ《祀徒》を集めなさい。私の理想の実現のために」  ペルシャはため息をついた。彼女にとって、ネフェルティティの命令は絶対なのだ。そのペルシャにも、今では立派なネコミミとネコしっぽが生えていたのだった。      ★     ★     ★ 「ネコミミの国じゃと! 冗談じゃないけん!」  広い和風の屋敷の中で、初老の男が息巻いた。 「わが根津組は、そんな国は認めんけん! ヘーックショイ」  大きくクシャミをする。 「わしゃあ、猫と聞くだけでアレルギーが出るんじゃい! いいか、野郎ども、どんな手を使ってでもそのふざけた遊園地をぶっ潰すんじゃあ! 若ぇ衆を集めんかい! 出入りじゃあ!」  指定暴力団根津組4代目組長、根津公太郎[ねづ・こうたろう]は、東京ファラオランドとの戦いを宣言した。      ★     ★     ★ 「あー! 我々ェ、『ネコミミキャラは二次に限るオタク同盟』、略称ネコニジ同盟はァ、三次の安易なネコミミ化にィ、断固ォ、反対を表明するものであーる!!」  ぞろぞろと集団で練り歩き、シュプレヒコールを上げるのは、見るからにオタクという外見の男性オタクたちだった。 「三次は惨事! 三次はキモい!」 「ネコミミ化をやめない限りィ、我々はァ、断固戦うものであーる!!」  集団のリーダー、自称桐生院虎[きりゅういん・タイガー]、本名板井八郎[いたい・はちろう]は声を張り上げた。      ★     ★     ★  かくして鳥取を舞台に、東京ファラオランドと根津組とネコニジ同盟の三つ巴の戦いが始まった。  そして三勢力とも、自営の戦力強化のために、強い《祀徒》の助っ人を求めたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――― ■マスターより  初めましての人は初めまして、お久しぶりの人はお久しぶり、伊豆平成2号です。  今回は(今回も?)、能天気なシナリオをやらせていただきます。  3つの組織のどれかに所属して戦うもよし、新たな勢力を立ち上げるもよし、ネコミミ好きな人も好きでない人も、楽しんでいってください。  あと、鳥取県の人、怒らないでね。 ■シナリオの目安 危険度:★★ 対応人数:★★★ キーワード:「戦闘」「PC対立」「ギャグ」「軽い」 ■関連選択肢 A010500 「東京ファラオランドに味方する」 ※備考:制限はありませんが、キャラの容姿の美醜によって待遇が異なる場合があります。 A010501 「東京ファラオランドと敵対する」 ――――――――――――――――――――――――――― 個人としてゲームを楽しむための交流の範囲を越えない場合に限り、この「初期情報」の複製、サイトへの転載を許可します。著作権等の扱いについては、公式サイト(http://else-mailgame.com/gddd/)を参照ください。 copyright 2012-2013 ELSEWARE, Ltd. ―――――――――――――――――――――――――――